イオンは10月15日から、電子マネー「WAON(ワオン)」の利用範囲をこれまでの関東から、中部、近畿に拡大する。利用可能店は約1万1000店舗まで増える。WAONの発行枚数は10月1日時点で約138万枚だが、利用可能店拡大とともに普及が加速しそうで、先行するEdy(エディ)やSuica(スイカ)などの電子マネーに匹敵する勢力に育ちつつある。

 イオンのマーケティング本部電子マネー推進部の藤井正紀部長に、WAON導入の狙いと今後の展望を聞いた。

(聞き手は清嶋 直樹=日経情報ストラテジー

WAONはイオン独自の電子マネーでありながら、レジ端末で他規格の電子マネーも使えるようにしているのはなぜか。(関東・中部ではJR東日本のSuica、関東私鉄のPASMO=パスモ=、NTTドコモのiD=アイディー=に対応、近畿ではJR西日本のICOCA=イコカ=とiDに対応)

WAON対応のレジ。Suica、PASMO、iD(近畿ではICOCAとiD)も使える
WAON対応のレジ。Suica、PASMO、iD(近畿ではICOCAとiD)も使える

藤井部長:イオンは小売業なので、お客様の利便性を第一に考えれば、既に多くの利用者がいる電子マネーを使えるようにするのは当然だ。利便性が高まれば、来店回数や客単価の増加にもつながる。

 クレジットカードの場合、この店ではこのカードしか使えないということはない。電子マネーでも同様のことを実現すべきだ。今後、ほかの規格の電子マネーにも対応することを視野に入れており、それを念頭にシステムを設計している。

 (Suicaなどを採用するだけではなく)独自にWAONを発行したのは、イオンの顧客層に持ってもらいやすい電子マネーがこれまでなかったからだ。ジャスコやマックスバリュ、サティなどイオングループのスーパーマーケットの主要な顧客は30~50代の主婦層。サラリーマンや学生の利用が多いSuicaやICOCAとはすみ分けられる。イオンの顧客層に合った機能やサービスをイオン独自の判断で実施しやすくすることも考慮した。

グループ内にはイオンクレジットサービスがあり、既に多くの顧客がクレジットカードの「イオンカード」を利用している。

 イオンカードには国内で約1500万人の会員がおり、既に事業として成立している。WAONなどの電子マネーの利用が増えることでイオンカードの利用が減るのでは困る。

 これについて事前に検証をしたが、イオンカードの利用率にはあまり影響がなく、すみ分けられることが分かった。これまでクレジットカードの利用に抵抗があり、現金を使っていた層がWAONに移行しているようだ。支払い時に小銭を出さなくて済むため、比較的高齢のお客様の間で評判がいいのは想定外だった。

 従来イオンカードを利用していたお客様にはそのままイオンカードを利用してほしい。しかし、フードコートでの飲食などクレジット決済がなじまないところでWAONを使ってもらうことを期待している。

WWAONのカード
WAONのカード

 現金での買い物では個別のお客様の購買動向を把握できないが、WAONやイオンカードではデータを蓄積できる。現金からWAONへの移行が進めば、より多くの購買動向をカバーできる。これを分析して、マーチャンダイジング(品揃え)に生かすことを視野に入れている。SuicaやiDなど他規格の電子マネーによる決済の場合、イオンは詳細なデータを入手できないが、100%をカバーするというのは元々あり得ない。WAONとイオンカードのデータがあれば十分だ。

 10月12日から、イオンカードからWAONに一定金額をオートチャージできるサービスも始める。これによって、WAON利用者がイオンカードに移行するといった相乗効果にも期待している。

電子マネーの投資対効果についてどう考えるか。

 電子マネー自体はそれほど儲かるわけではない。しかし、電子マネーは社会インフラになる。POS(販売時点情報管理)レジが出てきた時と状況が似ていると思う。私は20年ほど前にPOSレジの導入にかかわったことがある。POSレジも、入れたからすぐに儲かるという投資ではなかったが、社会インフラ・経営インフラとして、投資しないという選択肢はなかった。電子マネーも同じだと思う。

今後の展開は。

 これまで関東1都6県の店舗で利用できたが、10月15日に中部、近畿の店舗に拡大し、利用可能店舗は約1万1000店になる。来年春には約2万3000店まで拡大する。来年春には、イオン本体の全店への導入を終える。一部グループ企業では少し時期がずれる。POSシステムをグループ標準のものに置き換えてから電子マネー端末を導入する手順で進めるケースがあるためだ。

 グループ外の店舗でも使えるようにしたい。詳細は言えないが、既にいろいろと交渉を進めている。飲食店やドラッグストア、自動販売機も含め、どこでも使えるようにしたい。イオングループの店舗は北海道から沖縄まで、(公共交通網が発達した)都市部だけではなく郊外にもある。都市部でも、交通系カードを持たない主婦層などがいる。WAONはこの層をカバーしていきたい。