今、求められているWebのサービスはコミュニティを形成する機能を持ったもの。ブログにはこの能力があり、今後さらに利用者が広がる。しかもその分野は個人だけに限らず企業を含むものだ。ブログ・ソフト大手米シックス・アパートの会長兼CEO(最高経営責任者)であるクリス・アルデン氏はこう語る。(聞き手は中村 建助)

米国のブログの利用状況を聞きたい。

米シックス・アパート会長兼CEO クリス・アルデン氏
写真●米シックス・アパートのクリス・アルデン氏/span>

 当初は個人の日記やWebを通じた自らの表現手段として広がったが、今はコミュニケーション・ツールとして広がっている。コミュニケーションに有用だということが理解されるにつれて、個人だけでなく企業も利用するようになった。中堅・中小企業だけでなく大企業も利用し始めた。

 真に革命的なものはまず消費者から始まって次に企業が利用していく。例えば、飛行機や車がそうだ。ブログを始めとしたWeb2.0のサービスでも同じようなことが起きているのではないか。

ブログは生産性を向上させる

 利用の仕方も変わってきた。外部へのマーケティングを目的とするものだけでなく、社員の生産性を向上させるためのもの、あるいはCMS(コンテンツ管理システム)としてWebサイト全体をブログを使って作成する企業が出ている。大学のような組織でもより効率的な情報共有のためにブログを使う例が増えた。

 プロジェクトの共同作業や顧客とのやり取りも効率化できる。企業によるブログの利用はさらに増えていくだろう。

 そもそもブログが登場するまで、Webサイトを構築することは簡単ではなかった。ブログが出るまではみんな高いツールでWebサイトを作っていた。現在のブログはコンテンツ管理システムとしての能力も高まっており、ダイナミックなWebサイトをほとんど専用のシステムと遜色なく作ることができる。

ブログの利用の中心は企業に移りつつあるのか。

 企業と個人の双方で広がっている。米国ではフェースブックやマイスペースなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及によって、同じ人間の企業とプライベートの人間関係が別々のものではなくなりつつある。日本でもmixiなどを通じて同じことが起こりつつあるのではないか。

単なる情報発信ではなくネット上でコミュニティを作る能力が強く求められているといことか。

 そうだ。ブログを使えばネットで常に会話することができる。自分の友達を集めて会話するときにも役に立つ。

 同じことは企業でもいえる。多くの企業が、SNSの仕組みが社内のコミュニケーションの活性化に役立つことに気づいている。今、25歳以下の人間が社員はこういったコミュニケーションの取り方を前提に育ってきた。これらの社員のことを考える必要もある。

 ただ企業は、フェースブックのような一般のSNSを使ってコミュニケーションの仕組みを作りたいとは考えていない。同様の能力の持つものを社内で既存のシステムと連携させて使いたいのだ。当社の製品はそのために役立つ。

共同作業を効率化するものとしては既存のグループウエアがある。

 ブログはグループウエアを置き換えるものではない。これらと併用するものだ。 企業には導入に多額の費用がかかり複雑なグループウエアと電子メールが存在している。電子メールは簡単に使えるが、双方向のコミュニケーションがそれほど得意ではないし送信ミスも頻繁に発生する。

 ブログはその中間を埋めるものだ。簡単に利用できるが、検索機能も備える。コメントによる会話やタギング、アーカイビングも可能だ。当社のMovableTypeには複数のブログの内容を1つにまとめるアグリゲーションや、これはと思った記事をレコメンデーションの機能もある。

SNSは大型少数から小型多数へ

SNSがブログに取って代わるのではないか。

 情報発信とソーシャル・ネットワーキングはどんどん近付いているというのが実態だ。それに巨大なSNSにすべてが収れんしていくとは思わない。

 90年代に戻るとWebで情報を発信している企業はごく少数だった。ブログの登場で、簡単に安く情報が発信できるようになって、その数が一気に増えた。SNSも今は少数だが、これからはどんどん数が増えるのではないか。実際にニッチなSNSが続々と誕生しているし、これからもこの傾向は続いていくはずだ。

 サービス提供者は、より豊かな双方向のコミュニケーションを可能にする機能を強化することが求められるだろう。相手がだれなのかを含め、まるで対面で話しているか分かるともっと楽しいはすだ。リッチメディアの採用が進むかもしれない。もちろんプライバシーの保護については考慮する必要がある。

シックス・アパートのサービスはコミュニティを作りたいという要望に応えられるのか。

 現在でも、当社のツールを使って自然にコミュニティがつくることができる。コロムビアミュージックエンタテインメントの「音レボ」がいい例だ。それからLiveJournalは世界最初のSNSだし、Voxでもコミュニティはつくれる。今後は、フェースブックやマイスペースなどの巨大なコミュニティとつながることができるようにすることを考えている。

マイクロソフトやグーグルなど他の大企業もブログ・サービスを提供している。

 ツールやサービスを提供している企業は何社もある。だが当社のツールは分野をリードしている。企業向けに十分なサポートを提供している企業もほかにはない。シックス・アパートのツールを使ってブログでコミュニティを作っている人が2000万人、読んでいる人が4000万人いることも忘れて欲しくない。

 これからの5年間のブログの広がりはこれまでの5年間を超えるものになるだろう。自分がブログを作るかどうかは別にして、仕事や生活に根ざしたツールとしてはほとんどの人間が利用するようになってもおかしくない。