暫定対応プロジェクトを通じて、IT部門はどのように変わりましたか。
今回、私は従来からの貯金システムだけでなく、保険システムなど幅広く担当しました。開発が難航した人事システムも途中から管理することになりました。ですから、基本的には部長以下のIT部員に仕事を任せざるを得なかった。特定のプロジェクトに傾注できなかったのです。その分、部長以下のIT部員が、かなり育ちました。
部下に任せるのは、なかなか勇気がいりませんか。
いります(笑)。でも私の体は1つですから。任せるしかなかった。
それから、CPMOを中心に、開発の進め方や進捗の管理方法などを、全社である程度は標準化できたと思っています。IT部員は通常200人程度でしたが、600人まで増員できた。それだけ多くの職員がシステム開発にかかわったのも、訓練になりました。民営化がなかったら、各システムの刷新が順番に進んだだけで、全社共通のプロジェクト管理手法は確立できなかった。
この動きを暫定対応だけで終わらせてしまうのは、本当にもったいない。10月以降の本格対応でも続けていきたいと考えています。
10月にIT部員は5つの新会社に分かれます。また昔の縦割りに戻ってしまいませんか。
そうならないように、CPMOのような全社のIT部門を連携させる役割は、持ち株会社のIT部門に引き継いでいきたいと思っています。
5社のCIOは、CEOなど経営層とどう連携していきますか。
経営トップが求める方向に、ITをどう使っていくか。これを考えるのがCIOの任務だと考えています。特に費用対効果をよく検証して、コスト意識をしっかり持たなければならないと思っています。
内部統制の機能強化を急ぐ
撮影:中島 正之 |
いくら投資をしたら、いつどれくらいの効果が出るのか。システム構築にはどの程度かかるのか。こうした見積もりを要求される機会が増えると覚悟しています。これまでも、投資委員会あるいは調達委員会などはありましたが、まだまだきちっとした予測を出せてはいないのが現状です。
IT投資は、あくまで費用ですから、いかに安く上げるかが重要だと思います。少しでも費用を抑えながら、求められる機能を実現していくことが、我々IT部門に課せられた責任です。
幸い、郵政公社になった時点から、企業会計の考え方を少しずつ取り入れてきました。システム開発の複数年契約もできるようになっています。ですが、まだ単年度の予算主義的な考え方を持っているところがある。今後は、厳重に投資効果を追求していかなければならない。システム開発にスピード感を求められるようになるのも、民営化による大きな変化でしょう。
それから、現行システムは内部統制関連の機能が弱点です。なかなかそこまで手が回りきらなかった。ですが、これからは頭を切り替えなければなりません。監督官庁も変わりますし、今まではこれで済んでいたという言い訳は通用しません。なんとなく、まずいなと思っているところは、だいたい指摘されます。時間がかかると言うと怒られますが、少しずつでも必ず強化していかなければならない。
いよいよ10月1日を迎えます。準備は万全ですか。
システムは、何事もなく運転しなければなりませんが、それだけでは民営・分社化が成功したとは言えません。現場のオペレーションがうまく回らなければならない。トラブルが起きたときに、業務の遂行をどう支援するかが重要なのです。
万が一のためのコンティンジェンシ・プランは、3カ月かけて用意しました。各システムとも7月末には作り終えました。例えばシステム全部が停止した場合とか、ある部分だけが動かなくなったとか、複数のケースを想定して、現場の職員が混乱せず業務を続けられるようにすることを念頭に、業務部門と相談しながら計画を立てました。でも、こういうものは想定外のトラブルが起きるのが世の常です。臨機応変の対応が必要な局面がくるのを覚悟しておかなければなりません。
63個の丸印を付けたい
切り替え当日は、全社共通の対策本部を立てて、その下に5社の対策本部を設けることになると思います。各社の対策本部を通じて、システムの切り替えに関する全情報が全社共通の対策本部に集まります。私はそこに24時間体制で詰めることになります。
10月1日には、63システムの担当者全員から「無事に動きました」と報告を受けたいものです。そのつど、丸印を付けて確認していきます。
|
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年8月22日)