米Microsoft,Group Product Manager,Web/Client User Experience Platform & ToolsのKeith Smith氏
米Microsoft,Group Product Manager,Web/Client User Experience Platform & ToolsのKeith Smith氏
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米Microsoftで,リッチ・クライアント技術「Silverlight」,デザイナ向け開発ツール「Expression Studio」などの開発チームを統括するKeith Smith氏が,9月19日に東京・有楽町で開催されたWeb開発者向け会議「REMIX07」に合わせて来日,本誌記者にSilverlightの現状と今後の方向性を語った。

Silverlight技術の現在のステータスを教えてください。

 9月5日(米国時間)に三つの発表を行いました。ランタイム環境であるSilverlight 1.0正式版のリリース,Silverlight向けに動画を最適化するツールExpression Encoder 1.0のリリース,そして米Novellとの協業でSilverlightをLinuxに実装する計画です。4月に米ラスベガスで開催したWeb開発者向けイベント「MIX07」で,私は「この夏の終わりまでにSilverlightを出す」と約束しました。それを果たすことができました。これで動画の配信を含め,リッチなアプリケーションを提供する環境一式が整いました。

クロス・ブラウザ/クロス・プラットフォームなど,SilverlightにはMicrosoftのテクノロジらしからぬ特徴があるように見えます。Microsoftのビジネスにはどう貢献するのでしょうか。

 ビジネスにうまく作用しているかどうかは三つの指標で測れると思っています。一つ目は売り上げが立つこと。二つ目は,プラットフォームの可能性を広く知らしめるために役立つこと。そして三つ目は,顧客が満足してくれることです。Silverlightテクノロジはこの三つに応えられると思います。

 まず,売り上げという点では,サーバー製品群や開発ツールの販売につながります。Silverlightのサーバー・プラットフォームは,Windows Serverでなくてもかまいません。実際にLinux環境にデプロイすることも可能です。しかし私たちは様々な投資を通じて,よりよいサーバー・プラットフォームを提供しようとしています。例えば,Windows Server 2008に搭載されるWebサーバー「Internet Information Services 7」には,ネットワーク帯域をユーザーに合わせて加減し,ムダなデータ転送を減らす機能があります。

 可能性を認知してもらうという点では,Expression Studioの役割が重要です。Expression Studioは,Visual Studioを使う開発者のカウンタ・パートとして,デザイナがWebアプリケーションの構築に参加できるツールです。しかし,それだけではありません。これまでMicrosoftにはデザイナ向けのツールはありませんでした。Expression Studioによって,デザイナは .NETに触れ,その可能性を知ることができるようになりました。.NET技術に縁のなかったデザイナが,Silverlightを通じて(Silverlightのスーパーセットに当たる)Windows Vistaアプリケーションなどの開発に参入する入り口となるでしょう。

 顧客満足度という観点では,Silverlightはまさに顧客の要望から生まれたテクノロジです。ユーザーが多く,参入コストが低いWebのリーチの長さと,(WindowsなどのOS)ネイティブ・アプリケーションと同等のリッチさを兼ね備えたテクノロジは,デザイナもデベロッパも待ち望んできたものです。クロス・ブラウザ/クロス・プラットフォームであることや,9月5日に発表したLinuxへの対応も,マーケットや顧客の声に耳を傾けた結果として出てきたものです。

Silverlightの将来版はどうなりますか。

 Silverlight 1.0は,Ajaxでの制御を前提としており,動画配信など「メディア・エクスペリエンス」の提供に主眼を置いています。一方,現在アルファ・テストを行っている次期版「Silverlight 1.1」は,.NET Frameworkと共通のアプリケーション実行環境を使った「mini-CLR」を組み込み,様々な言語を使って開発した堅牢なマネージド・コードを動かすことが可能になります。すべての .NET開発者は,サーバーやPCだけでなく,Windows以外のOSやInternet Explorer以外のブラウザ,さらにモバイル・デバイスなど様々なスケールのプラットフォームをターゲットにできるようになります。

mini-CLRはどのような構成になりますか。

 JIT(Just-In-Time)コンパイラやガーベジ・コレクタなどのランタイムは,フルセットの .NET Frameworkと全く同じものを使います。データ・アクセス機能や,画面描画機構「Windows Presentation Foundation(WPF)」のサブセットなど,.NET開発者がなじんでいる技術をそのまま利用できます。

 ただ,フルセットの .NET Frameworkには,Silverlightに必要ない機能が含まれています。例えばワークフロー処理のフレームワークである「Windows Workflow Foundation」や分散処理の通信基盤となる「Windows Communication Foundation」はSilverlightには必要ありません。これらはSilverlight 1.1には含まれません。

 フルセットの .NET Frameworkはダウンロード・サイズが25Mバイトほどあります。これに対し,Silverlight 1.1は不要な機能をそぎ落とすことで,ダウンロード・サイズを4.0Mバイトにまで縮小しています。1.1正式版のリリース時期はまだ決まっていませんが,2007年中には何らかのアナウンスをしたいと考えています。

はじめからmini-CLRを組み込んだものを1.0としなかったのはなぜですか。

 まずはSilverlight技術を多くの方々に使ってもらうことが先決でした。プラグインは90~95%程度まで普及しないと,採用に弾みが付きません。Silverlight 1.0のダウンロード・サイズは1.2Mバイトで,Siliverlight 1.1と比べてもさらに小さく,導入のハードルはより低めです。1.0にはオンライン・アップデートの機能が組み込まれているので,1.0が広まれば1.1への移行自体は難しくありません。Silverlightを使いたくなるようなコンテンツをパートナーとともに提供することで普及を後押ししていきます。