「ERP(統合基幹業務システム)パッケージの提供形態としては、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)は向かない」。こう強調するのは、米ローソンソフトウエアのハリー・デイビスCEO(最高経営責任者)だ。昨年、同業であるスウェーデンのインテンシアインターナショナルを買収した同社は世界5位以内に入るERPベンダーである。デイビスCEOにその真意と戦略を聞いた。(聞き手=島田 優子)

SaaSの採用に慎重だ。

米ローソンソフトウエアCEO(最高経営責任者) ハリー・デイビス氏
●米ローソンソフトウエアCEO ハリー・デイビス氏/span>

 SaaSは、アプリケーションをオンデマンド型で利用する。ERPパッケージで管理するような経営に直結するデータを、ファイアウオールの外に置いても構わないと思う会社は少ないだろう。顧客企業と話をしても、半数は当初からSaaSに否定的だ。残りの半数はSaaSについて耳を傾けるが、実際の採用を決めた企業は少ない。

 データの問題だけではない。SaaSのメリットの1つは、ベンダーがアプリケーションの保守を自動化できることだ。生産管理のように頻繁に変更が発生しないシステムは、この恩恵を受けられない。

米セールスフォース・ドットコムのようにSaaSベンダーとして成功している企業もある。

 SaaSを否定しているわけではない。アプリケーションに大きな変化をもたらす重要な技術だと思っている。SaaSに向くアプリケーションもある。利用者の数が多く、機能の変更が頻繁なものがその代表例だろう。米セールスフォース・ドットコムが提供する、SFA(営業支援)の分野はまさにこの条件を満たしたものだ。

サーバー導入型で実績があるからこそ、SaaSとして提供できる

 SaaSに適したもう1つの分野に人事があるだと考えている。当社もERPパッケージの人事の部分については、SaaSとして提供する準備を進めている。サーバーにインストールして利用するという形で我々の人事アプリケーションは導入実績がある。米ウォルマートも当社の顧客だ。サーバー型の導入実績が多いアプリケーションだからこそ、SaaSとしても十分な機能が提供できると考えている。

業務アプリケーションでSaaSとともに話題なのがSOA(サービス指向アーキテクチャ)だ。

 SOAは、ERPパッケージにとって欠かせない技術だ。当社の製品にも、SOAに基づいてERPパッケージを利用するための技術を積極的に取り入れている。SOAへの取り組みでは、ERPパッケージ・ベンダー大手のSAPや米オラクルにも負けていないと考えている。

 我々は両社のように、自社でミドルウエアを作る予定はない。市場で広く使われている米IBMのWebアプリーション・サーバー「WebSphere」を採用することで、当社製品以外のアプリケーションとも連携して利用しやすくなっていく。2年前から、WebSphereや開発ツールをERPパッケージにバンドルして出荷している。

10種類の業種に特化して、独SAPや米オラクルとは戦わない

独SAPや米オラクルは競合か。

 SAPやオラクルと同じ土俵では戦おうと考えていない。当社の強みは、ファッション、飲料品、公共など10種類の業種に特化していること。この領域では上位企業に負けないつもりだ。

 現時点で10業種から対象を増やすことは考えていない。10業種でも顧客は十分いる。成長の余地はある。インテンシアを買収したのも、対象業種が重ならないからだ。インテンシアと合併して我々の規模は2倍になった。現状はこれで十分だと考えている。ここ1年以内に買収して新たな業種を増やしたり、企業規模を拡大しようとは考えていない。

日本企業買収の可能性はあるか。

 10業種に特化して販売していく戦略は日本でも変わらない。日本市場では、「自動車業界に特化したEAM(エンタープライズ・アセット・マネジメント)」など、よりニッチな分野に力をいれていくつもりだ。こうした分野では、日本企業を買収する可能性があるかもしれない。

 日本でもっと優先すべきと考えているのは、ブランド認知度の向上だ。インテンシアを買収するまで、日本法人はなかった。まずは「ローソンソフトウエア」というERPパッケージ・ベンダーが日本市場にあることを知ってもらいたい。買収から1年しかたっていないため、まだまだ認知は十分ではない。今年度はマーケティングに力をいれていくつもりだ。