Mozilla 24の実行委員を務めた、村井純 慶應義塾大学教授
Mozilla 24の実行委員を務めた、村井純 慶應義塾大学教授
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 Mozilla Japanの主催で2007年9月15~16日に開催された24時間連続イベント「Mozilla 24」。この実行委員を務めたのが、日本のインターネットを創世期から支えてきた、慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純氏だ。Mozilla 24の意義や今後のインターネットの方向性について村井氏に聞いた。

■Mozilla 24にはどのような意義があるのか。

 インターネットには、「創造性」と「地球全体を包む」という大きく2つの特徴がある。このいずれにおいても、Mozilla 24の意義がある。

 まず創造性。インターネットは、新しいものをどんどん作り出せる基盤だ。元々のインターネットは研究者向けの閉じられた存在だったが、新しいものを創造し、チャレンジしながら、すべての人のためのものになった。Mozillaも同じく、気がついたことは自分で作れるプラットフォームだ。インターネットの役割と共通する。

 次に地球全体ということ。私は、「真にグローバルな環境」というものはインターネットが初めてもたらしたと考えている。私がこれまでで一番「地球」を意識したのは、西暦2000年問題の時だった。このとき、インターネットの運用に携わる各国の専門家が協力体制を採っていたのだが、ルートネームサーバーが置かれている場所のうち世界で最初に2000年を迎えたのが、日本だった。もし日本で何か問題が起こったら、次の欧州が2000年になる前に、皆で協力して修復しようということになっていた。

 実際は何も問題は起こらなかったのだが、このときほど時差というものを実感したことはない。地球には時差があって、各地が順番に2000年を迎えるのだ。24時間が経過してすべての場所のサーバーが正常に動いているのを確認したとき、「俺たちは守り通した」という気持ちになったのを覚えている。

 24時間は、インターネットが包み込んでいる地球が、1周するのにかかる時間にほかならない。この間ずっと、インターネットのことを考えるというところに意味がある。

■Mozilla 24のように、国際的なイベントが日本発で開催されるのは珍しい。

 いつも中心的な役割を果たしているのは米国のように思っている人も多いと思うが、実はインターネットの未来を考えるとき、世界の人たちは日本を注視している。日本をアンテナにしているのだ。日本に「新しい技術の“使いこなし力”があるユーザー」が多いからだ。

 新しい技術がネガティブな側面を持つ場合もある。例えば、プライバシー侵害の危険性があるといったものだ。もちろん、これらはきちんと解決しなければならない問題だ。だが日本人は必要以上に拒否反応を示すことなく、その技術の恩恵を受けるためにどんなデメリットがあるかをうまく見極めることができるように思う。つまり、新しい技術を受け入れられるマーケットであるということだ。

 それに、良い技術には日本から生まれたものも多い。良い例がソフトウエアの国際化だ。日本人は英語が苦手なことが多いが、外国語対応をしようとしたとき、日本語と英語のバイリンガルにすればよいというのでなく、すべての言語でうまく動くものにしようと考え、作ることができる。

 このイベントを主催しているMozilla Japanの人たちも、とても元気がある。米国で開発していると、ついつい世界のことを忘れてしまうこともあるが、日本にはしっかりとした使命感や危機感を持った人がいる。国際コンプレックスを持つ必要はないのだ。

■現在のインターネットにはどんな課題があるか。

 私は楽観的な人間なので、あまり「課題」という認識はない。だが「変化」という意味なら、2つのポイントがあると思う。

 一つは、無線通信。無線によって人々はケーブルから解放され、生き生きと活動することができるようになった。これはとても大きな変化だったが、まだまだ無限の変化をもたらす可能性がある。

 例えば、井戸端会議のようなコミュニケーションができるようになる。人間は、知らない人だけれど近くにいるから話しかけてみよう、という行動が取れる。これはこれまでの通信技術では難しかったが、電波なら、近くにいる人みんなに発信できる。これを活用することによって、コミュニケーションは大きく変わるだろう。

 もう一つは対話だ。インターネットによって地球全体がつながり、地球の誰とでも話せるようになってきた。このとき、いかにリアルタイムに対話(インタラクション)できるかがテーマとなる。

 究極的には、限界点となるのは光の速度だ。光が地球を一周する時間は133ミリ秒。人間の脳の反応速度は50~150ミリ秒程度だというから、133ミリ秒の時間があれば、人間がリアルタイムだと感じられるコミュニケーションが実現できるということだ。

 その意味で、133ミリ秒というのは非常に興味深い数字だ。私は、神に「(リアルタイムの対話実現を)あきらめるな」と言われている数字ではないか、などと思っている。

■最後に、今後のインターネットにとってブラウザーの果たす役割をどう考えるか。

 インターネットは、分散OSのようなものとして発展していくだろう。そしてブラウザーは、インターネットそのものの基盤になっていくと思う。

 一番重要なのは、インターネットの特徴でもある「自由」と「創造性」だ。人類共通の基盤を作るために、皆が集まり、話し合うことが大切だ。その意味で、Mozillaの活動にはとても意味がある。