IT分野の専門調査会社である米ガートナーのエグゼクティブ プログラム(EXP)を担当するホゼ・ルジェロ氏とデーブ・アロン氏がこのほど来日した。EXPは企業のCIO(最高情報責任者)に対する助言を行うプログラム。両氏はそれぞれ米国と英国に拠点を置いてプログラムを統括しており、世界各国のCIOの動向に詳しい。両氏に、CIOの果たすべき役割や、日本企業と欧米企業の違いについて話を聞いた。

ガートナーのCIOエグゼクティブプログラムを統括するホゼ・ルジェロ氏(左)とデーブ・アロン氏

日本では、欧米企業に比べてCIOの役割が定着していないといわれる。

アロン氏:その理由は、ビジネスプロセスの成熟度が違うことにある。欧米企業では「職務記述書」などによって、ビジネスプロセス上で誰が何を担うかが明確になっている。CIOは、ITの活用によってビジネスプロセスを変革する役割を担うべきだという考え方が広がっている。

 日本企業でも生産現場などのビジネスプロセスは成熟度が高いが、全社最適よりも「品質改善」の優先度が高い場合が多い。生産現場以外では、一人ひとりの仕事が明確に定義されていないケースもある。この状況では、CIOがビジネスプロセスの変革を担うのは大変だ。

ルジェロ氏:このことは、我々の調査結果にも表れている。世界中のCIOを対象に毎年実施している調査(日本を含む約1400人のCIOが回答)によると、CIOが「ビジネス面で優先する項目」について、グローバルでは「ビジネスプロセスの改善」が2006年、2007年と2年連続で1位になっている。一方で、日本では2006年は7位、2007年は4位と優先度が低い。

 もう1つ、「テクノロジー面で優先する項目」について聞いたところ、グローバルでは「ビジネス・インテリジェンス(BI)」が2年連続で1位だが、日本では2006年は3位、2007年は9位にとどまっている。ちなみに日本は「セキュリティー技術」が2年連続で1位だ。

 BIアプリケーションは、(IT部門ではなく)データを分析・活用するビジネス部門が主導権を持って、ビジネスプロセスの改善を目指す性質のものだ。日本企業のCIOはまだこの点について関心が低いようだ。

CIOが役割を果たすためには何をすべきか。

ルジェロ氏:CIOとして成功するためには、自社の戦略的なニーズについて把握することが重要だ。我々がサービスを提供している企業を見ても、トップクラスの企業の多くでは、事業戦略とIT戦略がかみ合っている。

アロン氏:これは、業種・業界を問わず共通して言えることだ。例えば、伝統的な産業である砂利・セメントのメーカーで、対照的な2社がある。一方は「我々は砂に集中する」という戦略を立てており、ITについても現状維持に徹している。もう一方の企業は、「買収を軸に成長する」という戦略を掲げており、CIOは買収した企業の情報システム・業務を統合することによって効率化を図る役割を担っている。この両社は戦略に対するアプローチが全く違うが、いずれも業績は堅調だ。

 一方で、企業のCIOと話をしていると、「自社に事業戦略が無い」という悩みをよく聞く。これは、世界共通のようだ。日本でも、「売上高を何%増やす」といった抽象的な事業戦略が多いと聞く。これはスローガンであって、戦略ではない。スローガンだけあっても、CIOはIT戦略を立てようがない。