マイクロソフトの「外交官」とも言うべき存在が、ジャンフィリップ・クルトワ上級副社長である。相互運用性やセキュリティなど基盤技術に関する諸活動に参加し,各国の政府機関にも働きかける。並行して,マイクロソフト インターナショナルのプレジデントとして,米国とカナダを除く,全地域の販売やマーケティング活動を統括する。

写真●ジャンフィリップ・クルトワ上級副社長
米マイクロソフトのジャンフィリップ・クルトワ上級副社長。マイクロソフト インターナショナルのプレジデントでもある
(写真:乾 芳江)

 ジャンフィリップ・クルトワ上級副社長は、マイクロソフトの経営陣にあって異色の存在である。というのは,クルトワ氏が担当している諸活動が,他のITベンダー製品や業界標準技術とマイクロソフト製品との相互運用性向上、NPOへの技術支援や新興途上国への教育支援といった社会貢献、産学連携による研究・開発推進など,一見するとばらばらで相互の関連が分かりづらいからだ。しかも,これらの大半は,直接の売り上げに結びつかない仕事である。

 こうした活動を進める狙いはどこにあるのか。クルトワ上級副社長は、自身の役割を「世界の各地域レベルと世界レベルの両方で、イノベーションを後押しすること」と定義し,次のように話す。

 「地域レベルでは、NPOや政府・官公庁への技術提供、各国企業との知的財産権の相互供与を進める。地域の人々が、ITを活用してより容易に社会へ参画できるようにするためだ。一方、グローバルな視点では,標準技術の普及や当社製品への実装、他ベンダーとの相互運用性の向上に取り組んでいる。米サン・マイクロシステムズや米ノベルとの技術提携は、その一例だ」。

写真●ジャンフィリップ・クルトワ上級副社長
ジャンフィリップ・クルトワ上級副社長
(写真:乾 芳江)

 クルトワ上級副社長が指揮した日本における直近の活動は、2006年11月に「マイクロソフト イノベーションセンター(MIC)」と呼ぶ組織を設立したことだ。同社の研究開発施設を貸し出し、ソフトウエア企業の技術研究や製品開発に利用してもらう。「ソフトウエア企業が当社のプラットフォームを使って、研究活動や製品開発をするための好循環を作る。業種や業務に特化したアプリケーションの開発を促したり、日本のソフトウエア企業が世界へ進出できるよう、支援したい」(クルトワ上級副社長)。

 こうした活動を、マイクロソフトは単なる慈善事業としてやっているわけではない。「社会貢献やソフト企業への技術支援は、当社の長期的な成長に不可欠な活動でもある」とクルトワ上級副社長は明言する。Windows搭載パソコンの総出荷台数は、10億台に手が届こうとしている。さすがに成長が鈍りそうなものだが、クルトワ上級副社長は「(パソコンを1人1台使うとすれば)当社の顧客はまだ50億人も残っている」と微笑む。

 こうした将来の顧客を開拓するための種まきが、クルトワ上級副社長のミッションというわけだ。柔和な物腰のクルトワ上級副社長だが、その役割は同社にとって極めて「戦略的」と言える。