「VistaはMicrosoft Windowsの『最後のメジャー・リリース』になる」--。米Gartnerは2006年12月に,「2007年のIT業界予測」として,このような見通しを打ち出した。同社のフェローで,Microsoft分析を担当しているDavid Mitchell Smith氏にその真意を聞いた(聞き手は中田 敦=ITpro編集)。


Gartnerは昨年,「Windows VistaがWindowsの最後のメジャー・リリースになる」と予測しました。

米Gartner フェロー David Mitchell Smith氏
米Gartner フェロー
David Mitchell Smith氏

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 これに関しては,様々な観点で語れるだろう。1つは,Windowsがいつまでモノリシック(一枚板)であり続けられるか,という問題だ。Windows Vistaは,非常に大きなソフトウエアであり,OSの構成を変えるのが難しいという弱点を抱えている。

 将来的にWindowsは,よりコンポーネント・ベースになり,OSの構成をより簡単に,他のパートに影響を与えることなく変更できるようになる。またリリースはより頻繁になるはずだ。

 OSのアップデート自体が「Windows Update」のように頻繁になるから,「メジャー・リリース」が登場しなくなる(Windows Vistaが最後になる)のだ。きっとWindows Updateは,Windows Liveと同じように,同社のサービスにとって重要な部分になるだろう。

Microsoftはなぜ,Windowsを頻繁にアップデートしなくてはならなくなるのですか?

 もう1つの観点は,Microsoftの収入源に関する問題だ。Microsoftは現在,ソフトウエア・ライセンスを,従来型の売り切りモデル(パソコン・メーカーにOEMとしてWindowsを供給するのが代表例)から,サブスクリプション(購読型)モデルに移行しようとしている。サブスクリプション型に移行するためには,Windowsなどのソフトウエアのリリースは,より頻繁にする必要がある。

 Microsoftが売り上げを今後も伸ばしていくためには,ライセンスをサブスクリプション型に移行することと,ソフトウエアを広告収入ベースで提供していくことに,力を入れざるを得ないだろう。なぜならMicrosoftは,純粋な「ソフトウエア・カンパニー」だからだ。

 現在,Microsoftのようなソフトウエア・カンパニーは,Webから常にアタックを受け続けている。SaaSやオープン・ソースも,広義のWebといえるだろう。ソフトウエアを無料で提供しようという動きだ。

 米IBMのように収入がハードウエア,ソフトウエア,サービスと多岐にわたる企業であれば,ソフトウエアが無償化の方向に進んだとしても,収入を得る道は残されている。しかし,Microsoftのような,ソフトウエアしか収入を得る術のない企業は,そういった中でもソフトウエアで収入を挙げ続けるしかない。Microsoftの収入に占める広告の割合は,これからもきっと大きくなることだろう。

Microsoftは最近,将来の製品についてあまり語らないようになりました。

 現在,Windowsの開発を統括しているSteven Sinofsky氏は,慎重な性格だ。Longhornの時のように市場に対して過剰な期待感を持たせて,痛い目にあうような人ではない。Microsoftが,米Appleや米Googleのように秘密主義になった,と思うかもしれないが,これまでのMicrosoftが,市場に対して約束をし過ぎていたのだ。コンプライアンスの問題もあり,顧客やメディアと共有できる情報が少なくなったのだろう。