調査会社である米Gartnerは近年,「ITコンシューマライゼーション(消費者先導型IT)」という概念を提唱している。コンピュータのハードウエアやソフトウエアの進化は,企業向け(エンタープラライズ)市場ではなく,消費者向け市場で起きているという主張だ。なぜGartnerがそのような主張を行っているのか,同社のリサーチ部門責任者であるPeter Sondergaard氏に話を聞いた(聞き手は中田敦=ITpro編集)。


米Gartner,Peter Sondergaard氏
米Gartner
リサーチ部門担当 Senior Vice President
Peter Sondergaard氏

Gartnerが「ITコンシューマライゼーション(関連記事:第2次インターネット革命の衝撃)」を言い出したのは,従来の「エンタープライズIT」に,進歩がもう見込めないと考えたからですか?

 そうではありません。われわれがITコンシューマライゼーションを言い出したのは,コンシューマ分野でハードウエアとソフトウエアのイノベーションが起きており,しかもコンシューマ分野のITがエンタープライズ分野にも適用できるということを,訴えたかったからです。

 企業経営者の多くは,コンシューマITを活用するという視点に欠けています。エンタープライズITを進化させるには,エンタープライズITとコンシューマITを相互接続させるという発想が必要です。これが,ITコンシューマライゼーションの主張になります。

コンシューマITを企業に取り入れるとは,具体的にはどのようなことを言うのですか?

 ITコンシューマライゼーションは「従業員に『iPhone』を使わせよう」とか,「社内にブログ・システムを導入しよう」といった単純な話題ではありません。ITコンシューマライゼーションで重要なのは,「考え方」なのです。銀行のオンライン・バンキング・システムを例に考えてみましょう。

 オンライン・バンキングの目的は,顧客に対して,自らの手で銀行口座の管理ができる「セルフ・サービス」を提供することです。顧客にセルフ・サービスを提供するのであれば,顧客,つまりコンシューマに受け入れられているテクノロジを活用すべきではないか--これが,ITコンシューマライゼーションの考え方になります。

コンシューマ分野のテクノロジを積極的に活用している例があれば教えて下さい。

 最近,自動車を「ユーセージ・モデル」で提供する企業が現れているのをご存じですか。自動車を販売するのではなく,使った(走った)分だけ顧客に課金するというシステムで,顧客に自動車を使ってもらうというビジネスです。GPSやワイヤレス・ネットワークといった,コンシューマ分野で活用されているテクノロジを利用することで,こういったビジネスが可能になったわけです。

企業は,どのようなコンシューマ分野のテクノロジに注目すべきでしょうか。例えば「Nintendo DS」のようなゲーム機からも,エンタープライズITに活用できるヒントは得られますか?

 私個人は,Nintendo DSをとりたてて調査していませんが,ゲーム機が,使い勝手の良いインターフェースを搭載していることに注目しています。若い頃からデジタル機器に慣れ親しんでいる「デジタル・ネイティブ」の世代にとって,インターフェースは非常に重要な問題です。インターフェースの優れていないシステムは,それだけでデジタル・ネイティブに拒否されてしまいます。

 ですから,これからコーポレート・アーキテクチャにとって,インターフェースが重要事になる可能性があります。携帯電話がコンシューマ市場で受け入れられ,それが一気にエンタープライズに受け入れられていったように,ゲーム的なテクノロジも,インターフェースを中心に,エンタープライズに受け入れられていく可能性があります。

 もちろん,新しいテクノロジをエンタープライズにマージしていく上では,様々な注意が必要です。代表例がセキュリティです。先日もGartnerは,「iPhoneにはセキュリティ・ソリューションが欠けているので,企業ユーザーは手を出すべきではない」というメッセージを出しています。ゲームのテクノロジに関しても,同じ事が言えるでしょう。

ITコンシューマライゼーション以外についても話を聞かせて下さい。現在Gartnerは,どのようなITの動きに注目していますか。

 現在われわれは,ITコンシューマライゼーション以外に,「グリーンIT(ITに関わる環境問題への取り組み)」,「オルタナティブ・デリバリ・モデル」というテーマに注力して調査を行っています。

 グリーンITは,欧州で最もホットな話題です。どれぐらいホットかというと,欧州では既に,ベンダーが顧客に渡すシステムの提案書に「グリーンIT」という項目が盛り込まれているほどです。システムのライフサイクル管理にも,グリーンITの視点が欠かせなくなっています。