マイクロソフトは一体、どこへ向かおうとしているのか。グーグルに代表されるWebサービスの台頭、ビル・ゲイツ会長の引退、など同社の先行きに関する懸念材料はたくさんある。そこで幹部への連続インタビューによって、同社の行く末を探ってみた。第1回目は、企業向け製品事業の総責任者であるジェフ・レイクス氏である。勤続年数26年のレイクス氏が担当するのは、稼ぎ頭のOffice、Exchange ServerやSQL Serverなどサーバー・ソフト、開発ツールVisual Studio、業務アプリケーションのDynamicsなどだ。

写真●ジェフ・レイクス氏
米マイクロソフトで企業向け製品事業を統括するジェフ・レイクス氏
(写真:ウォーラーズ和子)

 「今後12カ月のうちに、あなたを驚かせるような発表を、少なくとも2つ用意している。具体的には、今は言えないがね」。こう言うと、レイクス氏は笑みを浮かべた。記者が「WordやExcelといったOfficeのクライアント・ソフトを『サービス化』する計画はないのか」と質問したときのことである。

 マイクロソフトは、既存のソフトウエアとネットのサービスの両方を提供する「ソフトウエア+サービス」戦略を進めている。レイクス氏が統括する製品における最大の焦点は、WordやExcelといったOfficeクライアントをいかにサービス化するか、である。ZohoやThinkFree、Google Docs & Spreadsheetsなど、Webブラウザ上で利用できるオフィス・ソフトが、相次いで登場しているからだ。

 こうした状況に対してレイクス氏は、ソフトとサービスのハイブリッドこそ最善という、マイクロソフトの基本方針を強調する。「Webベースのワープロ・ソフトが騒がれているが、利用者にとって本当にベストなのか、誰もが慎重に考えるべきだ。Webベースになると、機能や性能はどうしても限られる。我々はクライアントのソフトとネットのサービスの組み合わせが、最もパワフルであると信じている」(同)。

 ソフトとサービスを使い分けることで、使い勝手とネットの利便性を両立させるというのが、マイクロソフトの主張である。その一方で、Ajaxを使ったWebアプリケーションのユーザー・インタフェースは着実に改良が進んでいる。Webアプリケーションでありながらオフライン状態でも使えるようにするGoogle Gearsなど、関連技術の進化も著しい。「ソフト+サービス」がマイクロソフトの思惑通りに受け入れられるかどうか、今年の発表次第で同社の将来は大きく左右されよう。

サービス対応へ改造中

写真●ジェフ・レイクス氏
ジェフ・レイクス氏
(写真:ウォーラーズ和子)

 クライアント・ソフトへの適用はともかくとして、マイクロソフトがサービス化に力を入れていることは間違いない。同社はまず、サーバー・ソフトのサービス化を先行して進めている。すでにEAIソフト「BizTalk Server」についてはベータ版を今年5月から公開済みだ。

 さらに今秋、CRMソフトのオンライン版「CRM Live」を提供する。文書共有や電子メールを提供するサービスOffice Liveの提供範囲も、現状の中小企業向けから「順次、大企業向けへ拡大する。さらにVoIPやユニファイド・コミュニケーション、ビジネス・インテリジェンスなど、すべてがサービス化の対象になる」(レイクス氏)。

 レイクス氏は、サービス化に向けて既存ソフトの「構造改革」を進めていることも明らかにした。アプリケーションのコードを、多数のユーザーが共有して利用できる「マルチ・テナント型」に作り替える。

 他のソフト・ベンダーに対するサービス化の支援も手がける。マイクロソフトが開発ツールや移行ツールをソフト・ベンダーに提供。ソフト・ベンダーは既存のソフト製品を、マイクロソフトのプラットフォームを使って、サービス化し、オンライン提供できるようになる。「パソコンにおけるWindowsのように、サービスのプラットフォームを提供する」(レイクス氏)。セールスフォース・ドットコムが試みているサービス・プラットフォームの提供と、競合する動きと言える。