NGN対応のレイヤー3スイッチ 未来型アーキテクチャで開発中

<<前編を読む

コンピュータの世界ではSaaS(software as a service)のように,アプリケーションをオンラインで利用するという動きが活発になっている。こうした考えは携帯電話の世界には以前からあったものだが,どう見ているか。

 パソコンはスタンドアロンで始まったが,Windowsによってスタンドアロンに閉じている部分がある。これに対抗しようと,Googleのようにすべてをサーバー側で提供しようとするサービスが登場した。

 私の感覚からすると,両方とも極端すぎる。サーバー側に置いたほうがいいものもあるけれど,何から何までサーバーに任せるのはやり過ぎすぎだろう。プライバシーの問題もある。そこはやはり,程よいところを求めて線を引き,サーバーとクライアントをうまく連携させるべきだ。

 もともと携帯電話はメモリーが少なく,CPUも遅かった。だから,サーバーとクライアントの連携を考えざるを得なかった。この歴史的な背景があるからうまく進化していると思う。

 もっともパソコンの世界では,ソフトウエアをネットからダウンロードして機能強化することは当たり前になっているが,携帯電話はまだそこまで自由に機能を高められるようにはなっていない。ただし,技術的な問題はではない。例えば,万一ダウンロードしたソフトウエアが動かなかったとき,携帯電話ユーザーがパソコン・ユーザーのように対処できるとは限らないことへの配慮もある。

 もう少しすると,後から欲しい機能を追加したり,不要になった機能を削除したりできるようになるだろう。極端なことを言えば,ウィークデーとウィークエンドでダウンロードする機能が違ってくるとか。そんな現象が徐々に起こってくるかもしれない。

NGNというIPベースの新しい通信サービスを作る動きがある。そこではIPv6の本格活用や携帯電話網のIP化といったテーマが議論されている。

写真●鎌田 富久(かまだ・とみひさ)氏
撮影:新関 雅士

 通信事業者はネットワークの品質を高めていきたいという発想だろう。これに対してインターネット事業者は,品質もアプリケーションに任せた方がよいと考えている。網か端末かという議論だが,どちらも一長一短ある。

 確かに電話サービスなどは,ある程度の品質を保証してほしい。それでも歴史を振り返ると,インターネットのように自由にアプリケーションを作り込める環境の方が成功してきた。また,安ければいいという考えのユーザーもいるだろう。異なる品質の網を作ることはコスト的に大変だろうけど,ユーザーが選択できるようにしてほしい。

 携帯電話網のIP化については,IPv6で作るのも悪くないと思う。携帯電話のパケット通信サービスが始まったのは90年代後半だけど,あのタイミングでIPv6を使うのはちょっと難しかった。でも,今ならIPv6を選べる。

 IPv6の採用に当たっては,大上段に「IPv6だから何が出来るのか」などと構えずに,「管理が楽だから導入しよう」という考え方で取り組むのはどうだろうか。実際,管理は楽になる。

 問題は,すでにIPv4の世界ができあがっていること。IPv4とIPv6は全く別のプロトコルだから,すぐに置き換えられるものではない。例えば3.9Gを作るときがチャンスかもしれない。

NGNに向けて取り組んでいることは。

 昨年買収したIPインフュージョンがシスコ対抗のレイヤー3スイッチを開発している。ACCESSは20年前からTCP/IPをやっているので,ネットワーク機器のソフトウエアをずっと手がけたいと思っていた。ただ,NetFront Browserが成功したので,なかなか手を出しにくい領域になっていた。

 今,IPインフュージョンでは,NGN向けの新しいネットワーク・ソフトを開発している。現行のルーターOS製品である「ZebOS」をベースとするものの,NGN時代に即した未来型のアーキテクチャに作り替える。そこではSIPもハンドリングできるようにして,通信事業者に提案する考えだ。さらに, NGNにつながる家庭向けのホーム・ゲートウエイ・ビジネスも展開する。こちらについては,おそらく今年中に発表できるだろう。

ACCESS 取締役副社長兼CTO
鎌田 富久(かまだ・とみひさ)氏
1961年生まれ。東京大学理学部情報科学科博士課程修了。1984年,大学院在学中に,現社長兼最高経営責任者(CEO)の荒川亨氏とともに基本ソフトウエアを開発するベンチャー企業,有限会社アクセスの設立に参加。1996年11月に株式会社ACCESSに改組されると取締役副社長に就任する。2005年5月から最高技術責任者(CTO)を兼任。2007年2月からは米パームソースを前身とする,アクセス・システムズ・アメリカスの最高経営責任者(CEO)も兼務する。4年間に100回以上海外出張しており,「時差に関係なく仕事ができることが特技」という。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年5月22日)