「既存のソフト会社がSaaSベンダーに生まれ変わるためには、アプリケーション、パートナー、収益モデル、企業文化の4つを変える必要がある。これはそれほど簡単なことではない」。一般消費者向けのカスタマーサービスをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)で手掛ける米ライトナウ・テクノロジーズのCEO(最高経営責任者)こう話す。(聞き手は中村 建助)

ライトナウ・テクノロジーズについて説明して欲しい。

米ライトナウ・テクノロジーズCEO グレッグ・ジアンフォルテ氏
写真●米ライトナウ・テクノロジーズCEO グレッグ・ジアンフォルテ氏

 当社は企業と一般消費者の間のCRM(顧客関係管理)についてのソリューションを提供している。劇的に増加している消費者からの問い合わせを効率的にしかも顧客満足度を向上させる形で処理できるようにする。

 SaaSのパイオニアの1社であり、売上高も上位2社の1つに入る。設立して10年だが過去ずっと連続して成長しており、昨年度の売上高は1億1000万ドルだった。世界に1800社程度、日本ではリコーやニコン、全日空、松下電器産業、JALカードなど55社ほどの顧客企業がある。

BtoCにCRMを導入した初の企業

 これまでのCRMはほとんどBtoBの現場で使われていた。当社のサービスは、企業が消費者と対峙しているところで使われる。CRMのソリューションをBtoCに導入した初めての企業だ。

サービスについてもう少し具体的に説明して欲しい。

 8つのステップで、一般消費者と企業の関係を改善する。これを実現するために30種類の異なるアプリケーションを利用する。

 まず顧客からの問い合わせとして考えられる情報をまとめた「ナレッジ・ファウンデーション」というものを作ってもらう。ナレッジ・ファウンデーションに記録したデータを、消費者がWeb上で自分で調べられるようにしたり、コールセンターのオペレーターの操作端末から確認できるようにしたりする。

 消費者が企業に問い合わせる方法は、電話や電子メール、Webサイト、チャットなどから最適なものを選ぶことが可能だ。消費者の声をどんな形でデータベースに反映していくのかも考える。電話でたらい回しにされて、その度に一から話し直すようなことをなくしたり、継続して問い合わせに対する回答の精度を上げたりする。

導入期間が短期化し総所有コストが大幅に減少する

SaaSのパイオニアの1社だというが、どこに良さがあると考えたのか。

 顧客のメリットが大きい。通常のソフトに比べて、導入スピードが5倍早くなる。30日間で利用できる。総所有コストは80%減少する。ソフトを購入するモデルでは、業務ソフトだけでなくデータベースやハードを買う必要がある。データベースについては管理者も必要だ。SaaSならこれらのものを購入する必要がない。

 SaaSの提供者はマルチテナントでサービスを提供できるので、ハードやソフトを効率的に利用できる。しかも企業は、トラブルが起きたときに障害の切り分けに悩むこともなくなる。」

 当社の場合は、さらにオープンソース・ソフトを多用してコストの削減に努めている。自動車メーカーに例えれば、ボディを構成する鉄鋼を無料で手に入れているようなものだ。バックエンドのシステムはLAMPスタックを中心に構成している。データベースのMySQLについては、世界で3本の指に入る利用企業ではないか。

SaaSの世界はどう広がっていくのか。

 ソフトウエアの将来はSaaSにある。CRMや人事だけでなく、ERP(統合基幹業務システム)のような分野も変わる可能性がある。導入速度や総所有コストを考えると、この方向しかないのではないか。

 構造を変えるイノベーションが起きたときには、これを実現する新しい企業が登場することが多い。大きな流れを考えると、米オラクルや独SAPのような既存の大手ソフト会社がSaaSを本格的に手掛けるのは難しいと思う。メインフレームのアプリケーションが、クライアント/サーバー(C/S)システムC/Sによって葬り去られたように、C/SのアプリケーションはSaaSによって終結期を迎えつつある。理由は4つある。

ソフト会社がSaaSに対応するには4つの壁がある

 まずSaaSで効率よくアプリケーションを提供するためには、マルチテナントが可能なものに既存のソフトを全面的に書き換える必要がある。これにはかなりの手間がかかる。

 2点目は、ソフトが複雑で導入にひは多くのコンサルタントを使うのが不可欠になっていることだ。SaaSにはこれがない。ソフト会社は、今までのパートナーと手を切って新たな対市場戦略を練る必要がある。

 3点目だが、これまでのソフトは購入の際にライセンスを前払いする。SaaSは使っている間だけ利用料を支払う。収益モデルが違うわけで、ウォールストリートが納得する形で、ソフト会社が資金調達モデルを変えるのは難しい。

 最後に、企業風土を変えるなければならない点である。多くのソフト会社の製品は、システム・インテグレータにソフトがシステムを構築する。効果を出すまでに時間がかかる。直接、顧客とかかわる機会はあまりない。これに対してSaaSは、顧客に満足してもらうことで利用が広がる。

 不可能とは断言しないが、これらの4つの条件を満たすのは既存のソフト会社にとって簡単なことではないはずだ。

シリコンバレーやニューヨークで起業する必要はない

モンタナに本社のあるIT企業は珍しい。

 元々モンタナ出身なわけではない。以前はシリコンバレーやニューヨークで仕事してきたが、インターネットの発展によって業務の地理的制約がなくなったので、地球上で一番美しい場所に本拠を置くことにした。

 また本社のあるモンタナ州ボウズマンは学生の街だが、この辺りの大学には1万2000人の学生が通っている。学生の気質もよく、雇用面でもプラスに働いている。