日本NCRは2007年8月、データ・ウエアハウスの「テラデータ」事業部門を分社する。三ツ森隆司社長件CEO(最高経営責任者)は「電子マネーに代表されるように、金融と流通のビジネスが交わる領域で市場が急速に広がっている」と、分社後は従来のコア事業である金融・流通分野に経営資源を集中させ、再度成長軌道に乗せたい考えだ。
いよいよ8月に「テラデータ」部門を分社しますね。
ここ数年、NCRはグローバルでテラデータ事業を主力と位置付けて前面に押し出してきました。株価もテラデータ事業の動向に反応していました。私自身、米本社が分社を発表し、その意義を理解するのに少し時間が掛かりました。
今回の分社は、本来のNCR側から見ると、「本当のコア事業である金融・流通分野をもう一度見直して再度成長させる」という意図があります。コア事業はまだまだ伸びる余地を多く残しています。分社により事業戦略が明確になれば、大きな成長が可能だと考えています。テラデータ事業にフォーカスしていたということは、金融・流通分野への投資が薄くなっていたという側面もあったわけですが、分社後は積極的に投資し、コア事業を進化させます。
現場の受け止め方はどうですか。
今では、コア事業をもう一度成長させることの大切さを社員も理解してくれています。グローバルでもそうですが、特に日本ではコア事業の元気がなくなっていました。しかし分社を発表し、コア事業の強化を明確に打ち出してからは、現場の士気が非常に上がっていると感じますし、実際に結果も出ています。
現在、データ・ウエアハウス関連を扱うテラデータ事業部とそれ以外の事業部の売り上げ比率は日本でもグローバルでもほぼ1:2.5です。事業部は元々それぞれが1つの会社のような感じで分かれているので、営業やエンジニアなどは現在所属している事業部に応じてどちらに行くかが決まります。分割によって業務に支障をきたす心配もありません。
IT業界ではM&Aによる再編が進んでいます。そんな中、会社を分割すれば、買収のターゲットになりませんか。
私もコンピュータ・アソシエイツの日本法人で社長を務めていた時期に、買収を何度も経験しました。グローバル企業はビジネス基盤を揺るがすような変化も恐れません。米IBMがパソコンやストレージ事業を売却したのも記憶に新しいことです。むしろこのような状況で事業を分ける決断をしたことに大きな価値があると思います。
日本NCRの成長戦略をどのように描いていますか。
まずは金融・流通分野で既存のお客様との関係をより強くしていくことが大切です。金融では手形の読み取りや、外為、コールセンターなどの分野で他社と差別化できる強みを持っていると考えています。実際、大手の銀行やカード会社で実績を積んでいるので、この顧客ベースはがっちり守りたい。
流通でいうと、POSやペイメントなどのハードウエアの強みを生かしたいですね。流通業界のIT投資は金融並みの大きさですが、ベンダー間の競争が非常に厳しい。ソフトウエアやサービスなどの参入障壁が低い分野では、多くの新規参入企業と激しい競争をしなくてはなりません。しかし、POSやペイメントなどハードウエアへの新規参入は容易ではありません。多くの企業が撤退した分野ですが、踏みとどまってハードウエア事業を継続したことが、現在の競争力につながっていると思います。ハードウエア分野は今後も積極的に投資して強化するつもりです。
また、金融と流通が交わる分野に特に強さを発揮できるのではないかと思っています。最近、電子マネーを導入する企業が増えています。電子マネーを導入する場合、それまで使っていたPOSなどのシステムを一気に作り変えなくてはならない。その他にも電子マネーとショッピング・ポイントを連携させたりと、今後様々なシステムが必要になってくると思います。そのような金融と流通の相互に関わる分野でこそ、我々は付加価値のあるシステムを提案できるのです。
日本NCRの企業文化をどう変えたいですか。
2006年に、副社長兼流通システム本部長として入社した時に強く感じたのは、自分たちの持っている強みを自分たちが一番認識できていないということです。いいエンジニア、営業はたくさんいます。優良な顧客もつかんでいる。しかし、業績が芳しくなかった時期が続いたり、何度もM&Aにさらされたことで社員に自信がなくなっていました。
流通システム本部でやったことは、情報を整理し目的をクリアにすることです。最初に感じたのは、現場は非常に強いがマネジメントが弱いということです。それぞれの現場が会社をあてにせずに自分たちで多くのことをやってしまおうという姿勢がありました。それはそれで強みではあったわけですが、個人事業主の寄せ集めのような状態になってしまっていました。そこで組織アプローチをしようということを徹底しました。日本の現場だけの閉じた環境ではなく、組織でアプローチし、それを会社が後方から支援するという体制作りをしました。その結果、昨年まで10年間減っていた売り上げを増加に転じることができました。
最近は外資系企業の日本法人に対する統制が強まっているように感じます。
日本NCRは以前からずっと独立した地域という位置付けです。他の外資系企業ですと、本部への報告の際に、まず1つ上の地域ごとの組織に報告し、そこを通して本部へといった形が多いと思います。しかしNCRでは私自身が直接米国に報告ができる立場にいます。外資系の日本法人の経営を上手く進めるには、本国とのバランスが非常に大事になってきますので、このような体制をとっていることは日本NCRにとってメリットが大きいのです。
NCRの日本でのビジネスは、今年で101年目になります。これほど長い歴史があって、かつ日本に根付いたグローバル企業はきわめて珍しい。採算重視ですぐ撤退してしまうような外資系企業も少なくないですが、日本NCRはそんな心配がありません。私自身も、NCRに骨を埋める覚悟で陣頭指揮を執ります。
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年7月3日)