検索連動型広告(キーワード広告)を「Yahoo! Japan」や「MSN Japan」などに提供しているオーバーチュア。同社は,キーワード広告のWebサービスAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を広告主に公開する計画だ。APIの公開により,キーワード広告と広告主の在庫管理システムなどを連携させて,新商品の広告を登録したり,在庫が無くなった商品の広告を取り消したりできるようになるという。竹尾直章副社長に,同社のキーワード広告の現状を聞いた。

(聞き手は中田 敦=ITpro



オーバーチュアは現在,米Yahoo!の傘下にあります。米国における検索エンジン市場シェアは「Google」の方が高いのに対して,日本のシェアは「Yahoo!」の方が高いと言われています。検索エンジンと密接な関係があるキーワード広告に関しても,同じような傾向が言えるのでしょうか。


オーバーチュアの竹尾直章・副社長
 現在オーバーチュアでは,「Yahoo!」のほか,「エキサイト」や「MSN Japan」にもキーワード広告を提供しています。日本における検索エンジンの市場シェアは,「Yahoo!」「エキサイト」「MSN」で65%を占めており,キーワード広告の売り上げシェアで見ても,オーバーチュアが圧倒的に高いのが現状です。

オーバーチュアの米国法人は既に「Yahoo! Search Marketing」と名称を変えています。日本のオーバーチュアとヤフー・ジャパンの関係は,今後どうなりますか。

 4月末に発表したとおり,日本のオーバーチュアもヤフー・ジャパンの子会社になります。今後,ヤフー・ジャパンが提供している各種の商品やサービスと,われわれのキーワード広告を連携させることで,(ヤフー・ジャパンが強い)バナー広告とキーワード広告を統合した,ワンストップ・ソリューションが実現すると考えています。

 またヤフー・ジャパンもこれまで広告に関して,(ユーザーの行動を分析した上で広告を表示する)ターゲティング広告を始めるなど,独自の取り組みを行っていました。ヤフー・ジャパンとオーバーチュアが一緒になることで,ターゲティング広告やモバイル広告など,様々な形態の広告を提供できるようになるでしょう。

オーバーチュアも「新スポンサード・サーチ」という,新しいキーワード広告サービスを発表しています。新サービスの特徴はどのようなものですか。

 新サービスで特に注目してもらいたいのは,キーワード広告の効果を分析する「レポーティング機能」が,より使いやすくなることです。単なる数字の羅列によるレポートではなく,グラフなどを多用しており,ユーザーの行動トレンドがどうなっているのかを視覚的に把握しやすくなっています。

 また,レポーティング機能では,顧客の獲得にかかった「顧客獲得単価(CPA)」が分かるようになりました。広告を出したキーワードごとにCPAを分析することで,どのキーワード広告が最も効果的だったかを把握できるようになります。

 もう1つ,「アシスト」という重要な分析機能も搭載しました。これは,顧客による商品の購入や資料請求という“ゴール”を実現したキーワードを“アシスト”したキーワードがどれかを分析する機能です。

もう少し,具体的に説明してください。

 例えば,ハイブリッド車の購入を検討しているユーザーを想定してください。ユーザーが資料請求を行う直前に検索していたキーワードが「レクサス」だったとしても,その前に「ハイブリッド」というキーワードを検索して,いくつかの選択肢を検討した結果,「レクサス」というキーワードを使っていたかもしれません。最終的な資料請求に至ったのは「レクサス」だったとしても,「ハイブリッド」というキーワードがそれをアシストしていた。このような補助的なキーワードを広告主に教える機能が「アシスト」になります。

アシストの役割を演じたキーワードを,どのように把握しているのでしょうか。

 Cookieを使って,検索エンジンのユーザーが,事前にどのようなキーワードをクリックしているのかを遡って調べます。

Googleは「Google Web Analytics」のような分析・レポート機能を提供しています。オーバーチュアも広告主向けのツールを強化しているということは,インターネット広告では,広告主自らが効果を分析する「セルフ・サービス」の傾向が強くなっていくのでしょうか。

 日本の場合は,そうはならないと思います。なぜなら,オーバーチュア日本法人の場合,広告主の数でみると広告代理店を通さずにわれわれと「オンライン」でのみ直接契約している社数の方が多いのですが,売り上げは広告代理店経由の方が多いのです。米国では直接契約の売り上げの方が多いので,これは日本特有の現象だと言えるでしょう。

 これが何を意味しているかと言うと,つまり自社で分析などができない広告主は,分析も含めて広告代理店にお願いしているのが現状だということです。日本では広告代理店に依頼する広告主が多いので,オーバーチュアとしては代理店政策も充実させています。例えば,代理店の社員に対するトレーニングや資格制度を提供していますし,代理店をサポートするコール・センターも設けています。こういった取り組みも,日本ならではのものです。

日本企業は代理店経由の取引を好む,ということですか。

 広告だけに限りません。私は以前,日本ヒューレット・パッカードでeコマース事業を担当していましたが,企業向けのパソコン/サーバー販売も,似たような状況でした。直販が可能なeコマースであっても,代理店経由で購入したいという顧客が多かったのです。日本のデルでも,代理店経由の売り上げが米国に比べて多いと聞いています。

キーワード広告は,これからどのように進化していくのでしょうか。

 現在でも,規模の大きな広告主は何十万個というキーワードを購入しています。これほどキーワードの数が多くなると,人手で管理することは不可能になります。キーワード広告の管理の効率化が,これからの課題になると思います。

 例えば,商品の在庫管理システムと連携させて,商品の在庫情報に基づいてキーワード広告を出したり,取り下げたりする。こういったアプローチが必要になるでしょう。このようなシステム連携を実現するために,われわれはキーワード広告のAPIを広告主に対して公開します。

 われわれの動きは,システム・インテグレータ各社にぜひ知っていただきたいと思っています。キーワード広告と連携できる在庫管理システムを提案できれば,システム・インテグレータはより高い付加価値を,顧客に提供できるようになるからです。

 広告業界はこれまであまりITに接点が無く,ITに少し弱い代理店もあります。その一方で,これまで広告関連ビジネスに参入しているシステム・インテグレータも少ないでしょう。われわれとしては,広告業界とシステム・インテグレータの上手なマッチングができるのではないかと考えています。

 既に,自社の広告宣伝費の100%をオーバーチュアにつぎ込んでいる企業もあります。システム・インテグレータにとっても,ターゲットにできる顧客は多いと思います。