現在、グーグルの企業向けの売上高は全体の1%に過ぎないが、同社にとって重要な意味のあるものだという。「同じ人間があるときには消費し、あるときには企業で働く。使いやすいと感じるサービスは同じだ。コンシューマーの世界の経験は企業向けでも生きる」と米グーグルで企業向けビジネスを担当するゴフ氏は語る。(聞き手は中村 建助)

グーグルにとって企業向けビジネスの意味はどのようなものなのか。2007年第1四半期の結果を見ても、企業向けの売上高は全体の1%に過ぎない。

グーグル エンタープライズ担当シニアプロダクト&マーケティングマネジャー ケビン・ゴフ氏
写真●グーグル エンタープライズ担当シニアプロダクト&マーケティングマネジャー ケビン・ゴフ氏

 確かに1%だが、当社にとって重要な1%だ。もう一つ、前年対比で100%以上成長している。この規模のビジネスとしては悪くないペースだろう。企業向けビジネスは、検索や広告サービスといった他のグーグルの事業と競争しているわけではない。比較の対象となるのは、企業向けビジネスを手掛ける他の企業だ。

IT投資の中心を保守から革新のためのものに変える

グーグルにとって企業向けビジネスの中心は何になるのか。

 電子メールのGmailや文書作成と表計算のGoogle Docs & Spreadsheetなどで構成するGoogle Appsの企業向け版と検索アプライアンスである。それからジオスペーシャルのサービスもある。

企業向けビジネスの目的は何か。

 現在、多くの企業では IT予算の70~80%をサポートや保守に投じており新規の部分が減っている。数多くのIT部門の人間が、問題を解決するためのパッチの適用作業などに追われているのが原因だ。

 これは企業にとって健全なものではない。現状を変えて、イノベーションを実現するための投資の割合を増やすのことがグーグルの役割だと考えている。その一つの核となるのがコラボレーションの分野である。

 電子メールやインスタント・メッセンジャ、Youtubeのようなもの含め、コラボレーションの分野はコンシューマの世界が先行してきた。グーグルなら、コンシューマ向けで培ってきたコラボレーション・サービスを企業に提供することができる。それに家庭か企業かという差はあれ、サービスを利用するのは同じ1人の人間だ。家庭で使い慣れたものは企業でも使いやすいはずだ。

 当社のサービスは利用者を囲い込むことができない。Webブラウザにアドレスを入力して応答しなければ、ほんの数文字をパソコンに入力するだけで、すぐにマイクロソフトやヤフーのサービスに乗り換えることができる。だからこそ、顧客満足度を向上させるため、常によりよいものを提供してきた。

SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)であることは、従来のソフトとどこが違うのか。

 企業情報システムにつきものだった運用の手間を減らせる。電子メールを例に説明しよう。社内システムでこれを運用するということは、メール・サーバー、セキュリティ、スパム、バックアップ、AD、モバイルクライアント、OSを同時に運用する必要が生じる。SaaSならこういったものが不要になる。

 すべてをSaaSにすべきだというのではない。既存のシステムと合わせて使うことで、IT投資を効率化してほしい。

他のシステムと連携して使える

もう少し具体的にGoogleの企業向けサービスのメリットを説明してほしい。

 企業向け検索については、さまざまなシステムで管理しているデータを対象としている。現在は多くの業務システムで個別に検索機能を持たせているが、統合的に検索できるようにすることで投資を効率化できる。今後も検索できるデータの種類をさらに拡張していく。

 Google Appsは、会社のパソコンだけでなく家庭にあるMacintoshや携帯電話からアクセスできる。Webブラウザが利用できればアクセスできる。そして、その情報をほぼリアルタイムに近い形で更新しながら共有することが可能だ。この種のコラボレーションによって、利用者の生産性を高める。

 中小企業の場合、まだ電子メールすら導入していないところも少なくない。50%の社員が電子メールのアドレスを持っていないという調査すらあるほどだ。Google Appsを導入して、電子メールを使えるようにするだけで生産性は向上する。

 既存のアプリとの接続、統合に力を入れている。コンプライアンス関連やデータのアーカイビングのほか、ERP(統合基幹業務システム)、CRM(顧客情報管理)のシステムとの連携も重要だ。

 それからGoogle Appsは、常に最新の状態にある単一のソースコードで提供している。セキュリティの不備があればすぐに解決できる。もう一点、Google Appsでは、文書の共有履歴なども管理者が把握できる。

Officeから置き換えることのできる利用者もいる