携帯電話端末などを手がけるフィンランドNokiaは,ファイアウォール機器やミドルウエアなどを扱うユーザー企業向けのビジネス・ユニットを2004年頃に統合し,2006年2月にはデータ同期ソフト大手の米Intellisyncを買収した。同社は現在,ファイアウォール機器に加え,モバイル端末と企業情報システムのデータ同期といった新たなビジネスに注力している。

 Nokiaが買収した米Intellisyncでアジア担当副社長と日本法人であるインテリシンクの社長を務め,買収後はNokiaでエンタープライズ・ソリューション事業部の日本担当副社長となり,2007年3月にノキア・ジャパンのエンタープライズ・ソリューション事業部カントリージェネラルマネージャーに就任した荒井真成氏に,Nokiaの企業向けビジネスの姿を聞いた。



ノキア・ジャパンでエンタープライズ・ソリューションズ事業部カントリージェネラルマネージャーを務める荒井真成氏(写真左)と,同事業部プロダクトマーケティングアンドビジネスディベロップメントディレクターを務める新免泰幸氏(写真右)
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エンタープライズ・ソリューション事業部とは何か。その位置付けは。

 電話関連ビジネスは世界的に行き渡っており,その単価は年々安くなってきている。このため,新規ビジネスを打ち立てる必要があった。こうした動きの一つとして,それまでバラバラだったユーザー企業(エンタープライズ)向けのビジネスを組織として統合した。これがエンタープライズ・ソリューション事業部(ES事業部)であり,3年前のことだ。事業部のヘッドクオータは米国のニューヨークに置いている。

 ES事業部の事業の柱は3つある。電話,セキュリティ,ミドルウエアだ。どういうことかと言うと,ユーザー企業がモバイル端末をバックエンドの情報システムと安全に連携させるために必要な道具立てを用意するということだ。端末も特にNokia製に限定しているわけではなく,各社の端末やソフトウエアをインテグレートしてソリューション(サービス)として企業に提供できるようにしている。

 ES事業部の前身は,セキュリティ分野の事業部門であるNIC(Nokia Internet Comunication)だ。NICは,長らく情報システム部門(IPネットワーク担当者)向けにファイアウォール機器を提供してきた部門である。この一方で,企業向けの製品としてはコミュニケータと呼ぶ業務用途のモバイル端末もあったので,こうした端末も含めて,1つの事業部に統合した。2006年2月に買収した企業向けデータ同期ソフト大手の米Intellisyncのミドルウエアも,同事業部で取り扱う。

 実際問題として,世間一般では,まだまだNokiaを電話関連企業としてとらえているユーザーが多いのではないだろうか。だからこそNokiaのことを,「デバイス非依存,アプリケーション非依存,コミュニケーション(通信経路)非依存で,セキュリティがしっかりしていて,インテグレータ・パートナと一緒に企業向けソリューションを提供している会社」として認識してもらうため,ES事業部はもっとメッセージを伝えていかなければならないと考えている。私はこの3月にノキア・ジャパンのES事業部ゼネラル・マネージャに就任したが,これからブランド・イメージを向上させていく。

確かにNokiaというと,情報システム部門のネットワーク担当者にとってはファイアウォール機器のベンダーであるし,一方で,業務部門にとっては携帯電話端末やモバイル端末の会社という認識だ。この両者をともに“企業向け”(=エンタープライズ)という切り口でパッケージングするということか。

 確かに,ファイアウォールとモバイルは関連が薄い。現実に,これまで企業がファイアウォールを導入する場面では,モバイルとは何の関係もないケースがほとんどだっただろう。ただES事業部を作ったときには,将来はモバイルとセキュリティは同時に考えるようになるという前提で,企業向けのビジネス・ユニットを戦略的に統合した。製品戦略は現在も練っている。

 パートナのチャネルという意味でも,ネットワーク・インテグレータの領域(ファイアウォール)とアプリケーション・インテグレータの領域(モバイル端末やIntellisyncのミドルウエア)とで,かなり性格の違う両者をともに扱っている。これは確かだ。さらにまた,事業の1つであるVoIP(Voice over IP)は端末やミドルウエアで実現されるものの,VoIPを導入するのはネットワーク部門やネットワーク・インテグレータであ るという難しさもある。

 ES事業部が現在メインに取り組んでいるソリューション分野は,(1)ファイアウォールのビジネス,(2)ワイヤレスE-Mailと呼ぶ,グループウエアをモバイル化しましょうという話,(3)VoIPの提案,(4)携帯電話上で動作する業務アプリケーションを作り込みましょうという話──の4つだ。この4つごとに,担当部署とインテグレータ・パートナが異なっている。

 ただし,現状ではネットワーク・インテグレータとアプリケーション・インテグレータは分かれているものの,徐々に融合しつつあることも事実だ。我々ベンダー側の仕切りもぼやけてきているし,色々な人がIPベースのソリューションを考えるようになってくると,インテグレータやユーザー企業においても,ネットワークとアプリケーションは融合していくようになるだろう。NokiaのES事業部は,こうした,今後起こるであろうトレンドを先取りしていると言える。

ES事業部が現在特に注力している事業分野はあるか。または目立った成果はあるか。

 グループウエアや電子メール・サーバーからモバイル端末に情報をプッシュするワイヤレスE-Mailの市場で,シェアを伸ばしてきている。最初にワイヤレスE-Mailの市場を形成したのは,2003年後半に米国でブレイクした「BlackBerry」のサービスを提供するカナダのResearch In Motion(RIM)で,RIMに次ぐ第2位の地位にいたのがNokiaが買収した米Intellisyncだ。NokiaのES事業部で扱うようになってから,さらに伸びている。

 企業の電子メールは,まだ5%しかワイヤレス化されていない。これがいずれ50%くらいまでワイヤレス化されるとすると,ものすごいマーケットが広がってくることになる。RIMはこの市場を見込んで巨大な売り上げを見込んでいる。Nokiaも,この分野で勝ち組として君臨し続けていたいと思っている。

 戦略的には,RIMとNokiaはデバイスとの依存性で分かれる。RIMのBlackBerryサーバーは独自仕様の専用端末を用いる点や独自のネットワーク・サービスを利用する点が特徴で,一方のNokiaはIntellisync時代からずっとデバイスやネットワーク・サービスなどに依存しないミドルウエアをSymbian OSやWindows Mobileなど各種の組み込み系プラットフォーム向けに提供してきた。この両者のアプローチはワイヤレスE-Mail市場の双璧を成している。

 NokiaとRIMの製品同士は,実は微妙な関係がある。まずNokiaのモバイル端末から見ると,BlackBerryはNokia端末から利用可能なアプリケーション・サービスとなる。BlackBerry Connectと呼ぶクライアント・ソフトが,Symbian OS搭載機であるNokiaのモバイル端末上で動作するからだ。一方で,BlackBerryのアプリケーションや専用端末は独自仕様であり,Nokiaなど他社のミドルウエアと連携動作することはない。

 ただし電子メールのプッシュではなく,パソコンのデータをBlackBerryの端末と同期させるミドルウエアに関して言えば,Intellisync時代からRIMにソフトウエアを提供してきており,BlackBerryに最初からバンドルされている。Nokiaとしては,自社のデバイスも自社のミドルウエアも,ともに依存性をできるだけ廃するようにしている。もちろん,端末とミドルウエアをNokia製品でそろえるとメリットがあるが,単体としても十分に使える製品でなければならないと思っている。