セキュリティ軸に事業を再構築,営業とPMには同じ資質が必要だ

2006年10月に持ち株会社制に移行したインテック。その中核会社であるインテックの社長に4月に就任したばかりの金岡氏は、創業者でありVANサービスのいち早い提供や業界への発言力などで知られた金岡幸二氏に連なる人物。衆目の一致するエースとして登場した金岡社長だが、スタートは昨年の情報漏えい事件の教訓をどう生かしていくかという厳しいものとなった。

ITほどの成長産業はない

新社長として、インテックを今後どういう会社にしていきたいと考えていますか。

 皆さんご存知の通り、当社は昨年7月、自治体からの仕事の中で非常にセンシティブな情報漏えい(富山県内4市のシステム検証用データ1653件がWinnyにより流出)を起こしてしまいました。あの反省をどう生かしていくか。これが最も大きい課題だと痛感しています。

 インテックは富山計算センターとして創業し、そのコンピュータパワーをユーティリティとして提供するため、VAN(付加価値通信網)事業にいち早く参入しました。情報処理と通信の組み合わせを、ビジネスとして誰よりも強く志向してきたという自負があります。そして情報処理も通信も、基本的に24時間365 日のノンストップサービス。当然、高い信頼性と品質が要求されるため、これを数十年にわたって展開してきたという点に、他のシステムインテグレータを凌ぐアドバンテージがあったはずなんです。

 そういう素地があるにもかかわらず、情報漏えいを引き起こしてしまった。そこでもう一度、情報セキュリティを核にお客様の信頼を獲得していこうという活動を始めます。具体的には4月から始まった第14次の中期経営計画の中で、セキュリティを最も高いプライオリティに掲げました。本来、我々が持っていた最大の強みを再構成・再構築して、セキュアなソフトウエア開発、セキュアなSI、セキュアなネットワークという形でお客様に提供していこうと決意しています。

 セキュリティは、当社の成長にも必ず寄与するはずです。ITバブル崩壊以降、お客様は安いソフト開発、あるいは安いシステムをずっと目指してきました。それは決して間違いではありません。しかし単に安ければいいのかというと、今のユーザー企業の経営層はそうは思っていないはずです。私はもう一度、高信頼・高品質でセキュアなシステムのニーズが高まっていると捉えています。

インテックはネットワークに強いというイメージがあります。現在の売り上げ構成はどうなっていますか。

 当社の売り上げで最も大きいのはソフトウエア開発です。大手のお客様が多いので、売り上げの4割近くに上ります。続いて、アウトソーシングとSIがそれぞれ25%。残りの10%強が純粋なネットワーク事業です。

 ネットワークはずっと価格が低落してきたので、売り上げ規模ではこの程度になっています。でも、かつて「VANのインテック」と言われていた時代でも、ネットワークの売り上げはそれほど大きくはなかったのです。

 先ほど単純なネットワーク事業の売り上げは10%強になってしまったと言いましたが、実は社内でも他の分野の幹部から、何でそういう(売り上げの低い)ビジネスを続けているんだ、という質問が出ることがあるんです。東京電力と始めたデータセンターのアット東京にしてもそう。全く分かってないとしか言いようがないんですが。

 ネットワークやデータセンターは、もう当社のブランドの一部になっている。どの会社も企業体としての歴史があり、その歴史に基づいたお客様の当社に対する認識があり、そして高信頼のサービスを提供してきた結果として、今現在の優良なお客様に恵まれている。無形なものの価値を認めて、ブランドの一環として総合的に判断していく。それが経営です。

現在は再びIT投資が活発になってきたようですが、目的といえば相変わらず「コスト削減」や「業務のスリム化」という内向きのものが多い。本来必要な「攻め」の投資になぜベクトルが向かないのでしょう。

写真●金岡 克己氏
撮影:柳生 貴也

 私見ですが、ITの活用があるレベルまで高まった結果ではないかと思います。例えば金融機関だと、自由化という大きな流れの中で業態の垣根がなくなり、その中でどういうIT投資をしたら最適なのか追及してきた。地方公共団体の場合は、合併やさまざまな法のしばり、慣習といったものの中でIT投資をしてきたと思うんです。そういうある範囲内での情報化というのは、もうかなりのレベルに達しているのかもしれません。だから投資が内側に向き、単一企業や団体内のコスト削減といったものが重視される。

 それをさらに全体最適化しようとすると、法体系や商慣習の変更という一企業の問題ではなくなってくる。もちろんITとは別の次元の話になってしまいます。

 投資の方向という点では、品質とコストの関係も大きいですね。日本は非常に高品質を求め、それが企業だけでなく日本全体の競争力向上につながってきました。しかし品質とコストは、最終的にはトレードオフの関係にあります。

 日本企業はあるレベルまで到達したのに、まだまだ足らないとばかりに完全性を追い求めてしまう。投資の方向が品質向上一辺倒になり、「ITを活用する」という方向に向かないのです。このままいくと「完全性の罠」に陥りかねません。これは社会全体として考えていかねばならない問題だと感じています。

なるほど。ところで金岡社長は、ITサービス業界の人材育成について、どのような考えを持っていますか。

 提案型営業という言葉がここ10年ぐらい使われていますが、提案型の営業とPM(プロジェクトマネジャー)、そしてコンサルタントに求められる資質は、おそらく同じものではないかと思っています。だから本来は、PMをやっていた人が次は営業をやって、逆に営業マネジャーをやっていた人が大規模プロジェクトのPMをやる形じゃないとうまくいかないのではないか。このような考え方をする人が少ないのが、私からすれば非常に不思議です。

 では共通項は何かというと、「お客様の問題点を発見して、それに対してソリューションを考える」こと。これに尽きます。

 加えて営業担当者は、技術のほかに自分の担当業種以外の業種についても理解しておく必要があります。例えばある業界のトップであるA社の経営層は、こう考えていると思うのです。「他の業界と比べた場合、我々のオペレーションはトップの地位を維持していくために必要十分なものなのだろうか」と。

 その時に、「御社のオペレーションは業界ナンバーワンですが、残念ながら他の業界では、こんな素晴らしいこともやっていらっしゃいますよ」という事例を説明できれば、本当にお役に立つことができる。これがITサービス企業の営業の姿だと思います。

IT業界は今は好況ですが、いずれは成長産業ではなくなってしまうという見方もあります。

 この業界はあまりに長い間、右肩上がりの成長が続いてきたので、少しフラットになっただけで皆さん騒ぎすぎなのではと思います。どの業種、業界でもやはり景気の波、変動はありますからね。例えば私は地元の北陸で本部長をやっていたのですが、9割のお客様は「金岡さん、ITサービス産業は将来性があっていいね」と言われます。私もこの20年、ずっとそう思っているのです。

 素直に今後の成長産業は何かと考えれば、ITサービス産業以外にはあまりないのではないでしょうか。もしかすると自動車はその数少ない一つかもしれません。この業界の将来に悲観的な方は、業界にどっぷり浸かり過ぎて疲れていらっしゃるのではないですか。

インテック代表取締役 執行役員社長
金岡 克己(かなおか・かつき)氏
富山県出身。1978年に東京大学工学部卒業後、東芝を経て85年にインテック入社。95年に技術部長、2000年に取締役兼アット東京代表取締役社長。03年に常務、05年に取締役執行役員専務ネットワークソリューション事業本部担当兼アウトソーシング事業本部長。その後北陸地域担当などを経て07年4月から現職。趣味は読書。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年5月29日)