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業務アプリケーションをネットワーク上のサービスとして提供する米セールスフォース・ドットコム。これらはSaaS(Software as a Service)と呼ばれ,セールスフォースは世界で約3万社のユーザーを抱える。国内でも日本郵政公社や三菱UFJ信託銀行が採用を決めている。SaaSの導入メリットやこれからの情報システム部門の役割などを宇陀社長に聞いた。 まずSaaSとはどのようなものなのかについて聞きたい。これまでの情報システムと比べたとき,SaaSで何が変わるのか。 企業の情報システムはこれまで,“買う”か“作る”しかなかった。SaaSは,システムを“借りて使う”という新しい形を持ち込んだ。 実はこういうサービスは,IT以外の産業では当たり前のように提供されている。例えば移動手段を考えると,自家用車だけではなく,タクシーやバスがある。もし移動手段として,専用運転手付きの高級リムジンが用意されていたらどうだろう。僕だったら,自家用車に乗らずにリムジンを選ぶだろう。 住宅も同じことが言える。一戸建ての持ち家もあるけれど,賃貸のマンションやアパートもある。出張に出かけたなら,大半の人はホテルを使うだろう。持ち家だけで済ませるわけにはいかない。必要に応じて借りることはごく普通のことだ。 こうしてみると,IT産業はまだまだ発展途上の産業に思える。ITの場合,車に例えると自家用車だけ,住宅に例えると持ち家だけといった具合に,自社でシステムを抱えることしか選択肢がなかったのだから。 SaaSはどんな企業が利用しているのだろうか。セールスフォースのユーザーに見られる傾向は。
第一は金融だ。この傾向は日米欧で共通している。もう一つはハイテク産業だ。シスコやシマンテックといった大手ITベンダーが軒並み当社のサービスを利用している。欧米ではテレコム企業も多い。 これらの企業に共通するのは,どの企業も競争の激しい業種にいることだ。激しい競争を勝ち抜いていくためには,いち早く市場にアプローチしないといけない。その一方で規制が厳しいから,いろいろな意味で管理もしっかりしないといけない。だから,攻めと守りを両立させなくてはならない。そこでSaaSを取り入れて,企業の競争力を高めているように思う。 SaaSの特徴は,インターネットの環境さえあればすぐにアプリケーションを活用できることと,徹底したセキュリティ対策を施したシステムでお客様のデータを預かっていることだ。従来型の自前のシステム開発なら,計画に着手してから1年半もかけてシステムを作り上げるようなスケジュールになってしまうだろう。これでは競争に勝てない。 今後,企業がSaaSを選ぶようになってくると,情報システム部門のあり方にも変化が出てくるのだろうか。 これは私のイメージだが,かつての情報システム部門といえば,開発と運用のための組織だった。 それが,最近はかなりの部分を外に出すようになってきた。例えば地方銀行が,共同センターのようなものを設立して利用しているのがいい例だ。本当にシステムを丸抱えしている会社はごく少数ではないのだろうか。 企業が開発や運用を外に出すようになった今,情報システム部門は経営企画に近づきつつある。経営企画部門が何らかの戦略を立てて,情報システム部門がそれを実行する“戦略実行部門”のような役割を次第に担うようになるのではないだろうか。その意味で私は,システムそのものはもはや企業の競争力ではないと考えている。 必要な分だけ,使う分だけ対価を支払うというモデルは分かりやすい。 極端な話をすると,気に入らないことがあったり不要になったりすれば,すぐにやめられる。これは,やはり大事なことではないだろうか。 それからもう一つ,中堅・中小企業はIT要員を抱えられないという現実がある。電話の世界だと,企業は特別に電話の専門要員を抱えない。総務部のスタッフが掛け持ちで担当する場合があるとしても,基本的にはメーカーや通信事業者がサポートしてくれる。そういう意味では通信サービスは我々のモデルに似ているかもしれない。 セールスフォースの場合,システムを開発したのも運用しているのも我々だ。発生した障害は,すべて当社の開発や運用の担当者が把握している。もう一つの特徴は,すべてのユーザーが一つのシステムの上で動いていること。つまり,個人ユーザーであっても,超大手企業のユーザーであっても,利用環境に違いはない。品質も信頼性も同じだ。
(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年4月3日) >>後編 連載新着記事一覧へ >>
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