
学生などの小さな集団が、作りたいものを作っていく。ブログやRSSなどの技術や米グーグルのような企業はこうした文化の下で花開いた。「最初にインターネットにあった、オープンなスタイルを取り戻したのがWeb2.0だ」。日本のネット普及の立役者の一人、伊藤穰一氏はこう話す。同氏は、企業が“2.0”になるためには、オープンな精神を取り入れることが重要だと考える
長くインターネットにかかわっていらっしゃいますが、『Web2.0』についてどうお考えですか。
一連の変化は“波”として考えたほうがいいと思っています。
インターネットは本来オープンなものです。それが2000年前後のネットバブルで、オープンな本来の“Web1.0”からかけ離れたものになった。その後、バブルが弾けて、元に戻った。これが“Web2.0”と呼ばれている世界ではないでしょうか。
Web2.0とWeb1.0の共通点は、少人数の集団がオープンスタンダードで、コラボレーションしながら技術を作っていくところです。中央集権的なものではなくて、ある種のアマチュア精神で営まれている。
1994年に米国でネットスケープ・コミュニケーションズが誕生してWeb1.0が始まり、98年にスタンフォードの学生たちが誕生させたグーグルが、ネットバブルの崩壊後にWeb2.0を代表する企業になった。こう言い換えてもいいかもしれません。
バブルからの回復がWeb2.0
インターネットが世界に普及し始めた90年代後半、オープンな標準の下で、自由に新しいものを作っていたわけです。ネットスケープが作ったNetscape Navigatorも、前身のMosaicもそうです。ネットの土台となるTCP/ IPやFTPプロトコルも小さなグループが生み出している。
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これらの技術によって、いろいろなものがつながるようになった。これがWeb1.0です。そこには大企業の姿はありませんでした。
企業はインターネットと相性が悪いと?
大企業はとかく、「参入障壁を作る」「誰かが責任を取る」といったことを考えがちです。だから閉じた世界をつくって活動するようになる。例えば企業の情報システムは、米IBMであればSNAなど、各社が独自に用意したメインフレーム用のプロトコルでしかつながらなかった。
それが90年代後半にインターネットの利用者が増え、企業利用が進むようになってくると、状況が変わっていきます。オープンな世界だからいろいろなものがつながるようになった。「Webはすごい」と考えた大企業が参入してくるわけです。
ですが大企業はオープンではない。インターネットの良さを十分生かせないまま期待ばかりが膨らんで、バブルにつながりました。2000年前後のことです。このときにインターネットが変質してしまった。
今でもバブルの後遺症は残っています。インスタント・メッセンジャは便利なコミュニケーション・ツールですが、マイクロソフトやAOL、ヤフーのメッセンジャはお互いにつながらない。利用者を抱え込もうという大企業の思惑が先行した結果です。
グーグル上場が再スタート
ネットバブル崩壊の影響は米国のほうが大きかったと聞きます。シリコンバレーでどのようにWeb2.0の潮流が生まれたのですか。
バブル崩壊後はベンチャーキャピタルも大企業も、Webからしばらく手を引いていました。そんな中で、一生懸命だった小さな会社を中心に、Web2.0の流れが生まれてきたんです。
ブログのソフトも2~3人の会社が起こしたものだし、Webサービスを使おうとか、XMLでやり取りするような仕組みを作る、マイクロフォーマットを広めようといった動きが進んだのです。
象徴的なのは、04年のグーグルの上場でしょう。グーグルは、インターネットのオープン・スタンダードを取り入れる考えを根底に持っています。
グーグルのサービスは多様化していますが、シンプルなデザインを維持している。これも、オープンであろうとしているからではないでしょうか。
Web2.0を象徴する技術やサービスで注目しているものは何でしょう。
RSS(RDF/Rich Site Summary)が面白いと思っています。
ブームになった後、大企業などがWeb2.0と言われる技術やサービスの活用を模索していますが、そのなかで最もうまく活用できているものではないですか。
本当の意味でオープンな技術ですから、RSSの活用が増えているのは、とてもインターネットらしいことです。RSSを使って、複数のソフトの間で送信し合ってコンテンツを伝播させる技術は企業でも役立つはずです。いくつかの興味深い動きもありますし、さまざまな活用例が出てくるでしょう。
同じような意味で、pingを含めたリアルタイムの情報発信やXMLを活用した消費者向けのサービスも面白いと思います。ブログなどもこの分野に関係していると思います。
理由を教えてください。
インターネットを支える技術の1つにHTMLがありますが、この枠組みのなかで処理しきれないことが増えています。その典型が情報をプッシュすることです。すべての情報を入手しようとすると膨大な手間がかかってしまうからです。
セマンティックWebなどの活動を通じて、この問題を乗り越えようとしているわけですが、なかなかうまくいかない。この状況をRSSが変える可能性があります。
インターネットのなかでは、完ぺきでないものがあっという間に進化していくんですよ。最初はすごくシンプルなものでも、使っていくうちにどんどん良くなる。
RSSなんかはまさにそうです。元々のセマンティックWebなどに比べるといい加減なのかもしれませんが、利用されることで広がっている。だから有望なんだと言うこともできます。
>>後編
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年3月19日)