米アドビシステムズは2007年秋にデスクトップ用動画再生ソフト「Adobe Media Player」の出荷を始める。Adobe Media Playerは競合他社のソフトとは異なる機能を持つ。例えば,RSSによって複数のサイトから最新の動画情報を得られる機能や,ユーザーがコンテンツを評価する機能,ユーザー・インタフェースを変更して配布する機能を備える。Adobe Media Playerを投入する意図や今後の戦略をダイナミックメディア担当のグループプロダクトマネージャーのクレイグ・バーベリック氏と同クリス・ホック氏に話を聞いた。

(聞き手は中道 理=日経コミュニケーション



Adobe Media Playerは米マイクロソフトの「Windows Media Player」や米アップルの「QuickTime」と何が違うのか。

写真●米アドビシステムズのダイナミックメディア担当のグループプロダクトマネージャーのクレイグ・バーベリック氏(左)と同クリス・ホック氏(右)
写真●米アドビシステムズのダイナミックメディア担当のグループプロダクトマネージャーのクレイグ・バーベリック氏(左)と同クリス・ホック氏(右)
[画像のクリックで拡大表示]
 最大の違いは,Adobe Media Playerが再生する動画フォーマット「Flash Video」が,Windows Media PlayerやQuickTimeが使うフォーマットよりも人気のあるということだ。ある調査会社によるとネットワークにつながっているコンピュータのうち,98.7%でFlashビデオが再生可能だという。Windows Media Playerは83.7%,QuickTimeは67.6%となっている。

 ユーザー・インタフェースを容易にカスタマイズできる機能や,RSSで最新の動画リストを取得したり,ユーザーがコンテンツを評価したりするといったソーシャル・ネットワークの機能を備えていることも大きな違いだ。

YouTubeのようなアプローチもある。Webアプリケーションなら画面のカスタマイズは容易だし,ソーシャル・ネットワークのようなサービスが実現できる。わざわざデスクトップのプログラムを提供する理由が分からない。

 YouTubeでFlash Videoが使われているように,HTMLの世界では我々は既に成功したと考えている。しかし,ユーザー・インタフェースはHTMLだけでなくパソコンのデスクトップもある。それに,ネットワークと直接つなげられない携帯ビデオ・プレーヤのようなものもある。そのため,Webとは違う大きなエコシステムを作りたいと考えている。ゴールはWebベースのシステムだけではないのだ。

携帯電話,携帯ビデオ・プレーヤの取り組みはどうか。

 まず,動画配信サーバーであるAdobe Media Serverは,端末のスペックに応じて最適なデータを配信する仕組みを備えている。あとは,携帯電話や携帯ビデオ・プレーヤがMedia Serverに対応すればいいということになる。これに対応したFlash Player 3はOEMで供給を開始しており,2007年後半には搭載製品が登場する見込みだ。

 このほか,パソコン向けのAdobe Media Playerと携帯ビデオ・プレーヤと同期機能を提供することを考えている。同期機能は,Media Playerと携帯プレーヤの間をUSBケーブル,Bluetoothなどで接続して,パソコンにダウンロードしたコンテンツを携帯プレーヤに送り込むというもの。アップルのiTunesと技術的には似ている。しかし,戦略は違う。1社の製品しか使えないというものではない。我々はオープンな戦略を採っており,多数の会社の多様な機器で使えるようになる。

アップルはiTunesによってコンテンツを売るという新しいビジネスに手を出した。アドビもAdobe Media Playerの提供によってこうしたビジネスに進出するのか。

 そのつもりはない。我々はツールやソリューションを提供し,それを購入してもらうのがビジネスだ。コンテンツ流通のためのシステムを構築し,運用するのはコンテンツ事業者であり我々ではない。

 確かに,Adobe Media Playerは無償だが,配信サーバーやコンテンツ作成ツールは有償だ。Playerが広がっていけば,こうしたツールの利用が広がっていき,収益につながっていくはずだ。

 マイクロソフトやアップルはメディア企業になろうとしている。我々はこうした企業に比べて中立だ。コンテンツ配信事業者は脅威を感じることなく我々とパートナーとして組める。

話は変わるが,映像は検索が難しいという問題がある。そこにアドビはどう貢献していくのか。

 アドビはユニークなポジションにいると思っている。コンテンツの作成から再生まですべての流れにかかわることができるからだ。

 映像に検索性を持たせる場合,映像ファイルとは別にこれに付属するメタデータを付加するのが,一般的なやり方だ。ところが,できてしまったコンテンツにメタデータを付け加えるのは大変な作業だ。もし,制作過程でメタデータをどんどん追加できるのなら,こうした手間は減る。我々はこうした仕組みをツールに埋め込んでいく。

 例えば,2006年10月に買収した「シリアスマジック」という製品では,映像にプレゼンテーションをしている人のスクリプトを簡単に付加できる。Webカンファレンス用の「Adobe Acrobat Connect」というソフトがあるが,これらではメタデータの中にPowerPointに入っているテキスト・データや聴講者の質問などを関連付け,検索ができるようにしている。

 将来的には音声認識や画像認識機能を充実させ,音声データや映像データから自動的にメタデータを取り出す仕組みを作りたい。