雪印乳業スキー部 コーチ 原田 雅彦氏
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 「コーチング」の語源はスポーツのコーチにあると言われる。自らの限界を破り、より高みを目指し続けるトップアスリートを育てるコーチは、どのように選手に接しているのだろうか。そのヒントを雪印乳業スキー部コーチの原田雅彦氏に聞いた。

 日本を感動と歓喜に巻き込んだ1998年の長野五輪の立役者は、2006年に現役を引退し、所属していた雪印乳業スキー部のコーチに就任した。監督を務めるのは、原田氏とともに長野五輪を戦った斉藤浩哉氏。「子供の頃からお互いよく知っていた」という両氏のつきあいは20年以上にわたる。

 主将を務める岡部孝信選手などベテラン勢が好成績を上げる一方で、若手選手も増えた近年は、斉藤、原田両氏の育成力が特に重要になる。「僕が技術的なことを教え込んで、原田さんがメンタル面で教える。こんな役割分担でやっています。2人が同じことを言っても仕方ないから」と斉藤監督は話す。原田コーチの加入まではコーチとして技術面の指導に当たっていた斉藤氏は、監督に就任しても引き続き新しい技術の習得に主眼を置き、「『前に進む』ための指導をする」という。

 これに対して原田コーチが重視するのは「基本に戻る」ことだ。「斉藤監督がいろいろ技術的なアドバイスをしても、それを吸収して、生かすことのできない選手のほうが多い。そういう時は基本に戻ってもらうしかない。土台がないわけだからね。戻ったらやってないことばっかりなんです。『あー、何もしてませんでした』ってだいたいみんな言う。だから一から徐々に積み重ねていく。選手はよくがんばっていますよ」

 時には厳しい態度で選手に接することもある斉藤監督に対し、原田コーチは「なだめ役」。選手のメンタル面を支え、チームワークを醸成する役割を担う。「選手をなだめるより監督をなだめるほうが大変」と苦笑する原田コーチだが、指導に当たって重視しているのは各選手の目標意識だという。「のんべんだらりと与えられたことだけやってもうまくいかない。自分なりの目標を持ち、目標を自分に手繰り寄せられる選手は、教えても話が早いし、飛んでいても魅力的」と話す。

 幼いころから競技で頭角を現し、競技に人生をかけるために雪印乳業スキー部を選択した選手であっても、初めから目標が明確なわけではないという。「入ってから変わる。壁にぶち当たりながら、このままじゃいけないことに気づいたり、いや、このままいくんだと気持ちを固めたりする」。こうした選手の心の動きを見極めながら、前に進むためのアドバイスをするのが原田コーチの「メンタルサポート」だ。「全世界の競技者がオリンピックでメダルを取ることを目標にするが、メダルは1つしかない。生半可なことでは取れない」。自らも何度かの挫折を経ながら、世界の頂点を極めた原田コーチの言葉は強い説得力を持つ。