MicrosoftでExpression StudioのProduct Unit General Managerを務めるDouglas K. Olson氏
MicrosoftでExpression StudioのProduct Unit General Managerを務めるDouglas K. Olson氏
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 米Microsoftは2006年12月にWeb製作ツール「Expression」シリーズでデザイン市場に参入すると発表した。その後,米国ではExpressionシリーズの正式版を投入するなど,着々とデザイン市場での地位を確立しつつある。日本語版のExpressionシリーズも近いうちに登場する予定だ。MicrosoftでExpression StudioのProduct Unit General Managerを務めるDouglas K. Olson氏(写真)が,Expressionシリーズの今後と,同社が先日発表したユーザー・インタフェース技術「Silverlight」について語った。

──まずは簡単にあなたの経歴を教えてください。

 私は以前,米Adobe Systemsや米Macromediaに所属していました。Adobeでは「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」といった製品の開発に携わっていました。Macromediaでは創立メンバーの一員として製品開発に携わっていました。MicrosoftではExpressionシリーズの開発に携わっていますが,実はこの会社に来てから18カ月しか経っていません。Microsoftがデザイン市場に挑戦すると聞き,自分もメンバーとして挑戦したいと思ってやってきたのです。

──Microsoftがデザイン市場に挑戦することになったいきさつを教えてください。

 従来のアプリケーションは開発者がユーザー・インタフェースを開発していたので,直感的でないとか,複雑だとかいろいろな欠点がありました。特に,企業用のWebアプリケーションはひどいものです。そこで,Microsoftは使いやすく,より良いユーザー・エクスペリエンスを得られるアプリケーションを開発しようと決めました。

 その成果の一部が「Windows Vista」と「2007 Microsoft Office system」に現れています。これらの製品は既存のバージョンに比べてユーザー・インタフェースの見た目が違うだけでなく,より直感的に操作できるように工夫しました。

 同じように,Webの世界でも多機能で見た目に美しく,直感的に操作できるアプリケーションを開発しました。例として「Photosynth」や「Virtual Earth」といったアプリケーションが挙げられます。これらのアプリケーションはWindowsの機能と,Webベースの機能を組み合わせて作成したものです。http://labs.live.com/にアクセスしてみてください。

 Microsoftは,より良いユーザー・エクスペリエンスを得られるソフトを開発するだけでなく,そのようなソフトを容易に開発するためのツールも提供すると決めたのです。そのためにデザイン・ツール市場に参入し,その結果生まれたのがExpressionシリーズです。Expressionシリーズを使って,デザイナーがユーザー・インタフェースを設計し,アプリケーションのロジックはプログラマが開発するというスタイルを採ることで,両者の力を最大限に発揮できます。

──本日,米国で「Microsoft Surface」という技術が発表されましたね。

 はい,Surfaceも同じ考えで開発した技術です。Surfaceはテーブルの形をしたコンピュータで,テーブルにディスプレイが装備されています。ユーザーは指でテーブルの表面をこするようにして操作できます。このアプリケーションはWindows Vistaのユーザー・インタフェース技術であるWindows Presentation Foundation(WPF)を利用しました。ユーザー・インタフェースのデザインではExpression Studioが役に立ちました。

 Microsoftが開発してきた技術も含め,市場にはユーザー・インタフェースを構築する技術がはんらんしています。例えば,XHTML,AJAX,Flash,ActiveX,.NET Framework 2.0, Javaなど数え上げれば切りがありません。私たちはこれを,Webブラウザ+AJAX,Webブラウザ+Silverlight,Windows+WPFの3種類に単純化しようとしています。

──Silverlightについて教えてください。

 その前にWPFのことを簡単にご説明しましょう。これはWindows XPとWindows Vistaで動作する全く新しいユーザー・インタフェース技術です。従来の技術と比べると比べものにならないくらい美しいユーザー・インタフェースを構築できます。例えば,New York TimesはWPFを使って,記事が新聞と同じように見えるユーザー・インタフェースを開発しました。企業用アプリケーションへの導入も進んでいます。

 WPFの鍵となるのが「XAML(Extensible Application Markup Language)」です。これはユーザー・インタフェースの見た目を定義するXML形式の言語で,Expression Blendで生成できます。このXAMLを変更すれば,アプリケーションの見た目を自由に変えられるのです。

 Silverlightは,Webブラウザ上で美しいユーザー・インタフェースを構築するための技術です。XAMLのファイルをWebブラウザ上で表現する技術ですね。WPFほどの表現力はありませんが,WPFと違っていろいろな環境で動作します。例えば,MacintoshのWebブラウザであるSafariや,Mozilla Firefoxでも動作します。

──SilverlightはWPFのサブセットということですか。

 その通りです。現在Silverlightの最初のバージョン(1.0)のベータ版を配布しています。今のところはDRMで保護されたHDTVレベルの動画を再生する機能しか持ち合わせていません。正式版は2007年夏にリリース予定です(英語版)。そして,次のバージョンであるSilverlight 1.1のアルファ版も配布しています。Silverlight 1.1では,WPFの機能のほとんどを利用できるようになります。

──Silverlightは今後どんどん機能拡張していき,WPFと変わらない機能を提供するようになるのですか。

 Silverlightが進化を続けることは間違いありません。WPFに非常に近いところまで機能拡張が進むかもしれません。特に,見た目は近づいてくると思います。しかし,データベース・アクセスなど,OSごとに事情が異なる機能もあるので,WPFと全く同等の機能を備えるようになることはないでしょう。

 ちなみに,私たちは先日のMIX 07で「Expression Blend 2」というツールを公開しました。現在のBlendではWPFアプリケーションのユーザー・インタフェース設計しかできませんが,Blend 2になると,Silverlightのユーザー・インタフェースを設計できるようになります。英語版のみとなりますが,ダウンロードしてお試しいただけます。

 また,MIX 07では開発ツールVisual Studioの次期バージョン(コードネーム「Orcas」)でSilverlightコンテンツを加工するための追加ツール「Silverlight Tools Preview for Visual Studio 'Orcas'」も公開しました。将来は携帯機器用の「Silverlight for Mobile」も投入予定です。

──Silverlight for Mobileのターゲットはどんな機器になりますか。日本では携帯電話が広く普及しています。携帯電話についてはどのようにお考えですか。

 Silverlight for MobileのターゲットはWindows Mobileを搭載した機器です。今のところ,Windows Mobileを搭載していない携帯電話については何の予定もありません。

──Adobe Systemsは「Apollo」というユーザー・インタフェース技術の開発を続けています。その目的はWPFやSilverlightにとても近いもののように感じられます。両者の違いについてどのようにお考えですか。

 ご存じの通りMicrosoftの看板製品はWindowsです。私たちはWindowsをお客様に買っていただくためにいろいろな技術を開発しています。ただ,現実には企業などでWebアプリケーションが普及しています。クライアントにWindowsを選ばなくてもよい状況になってきています。このような状況で,プラットフォームを選ばない技術としてApolloは普及するでしょう。

 しかし,MicrosoftもWindowsだけにこだわってはいません。プラットフォームを選ばない技術としてSilverlightを開発しています。さらに,Expressionシリーズの「Expression Media」という製品はMac OS X用のものも出荷します。Windowsというプラットフォームを守ろうとするのではなく,いろいろな環境で動作する技術を開発して,その結果Windowsのユーザーが増えればいいと思っています。

──もう一つ,同じような質問です。Sun Microsystemsは先日「Java FX」というユーザー・インタフェース構築技術を発表しました。これについてはどうお考えでしょうか。

 これは個人的な意見です。Adobe Systemsがプラットフォームを問わないユーザー・インタフェース技術を提供し,同様にMicrosoftも提供しました。Sun Microsystemsは,このまま何もしないと取り残されると思ったのではないでしょうか。

 もともと,Javaは,プログラム・ロジックの記述には広く使われていますが,Javaが提供するユーザー・インタフェース技術(SwingやAWT)は美しいとは言いにくいものです。今回の新しい技術についてもあまり期待はしていません。

──最後の質問です。XAMLで作ったユーザー・インタフェースをJavaのコードで利用できたら便利だと思うのですが,いかがでしょうか。

 少なくとも私はそのような予定は知りませんね。ちなみに,Orcasでは,DLR(Dynamic Language Runtime)という機能を搭載し,RubyやPython,JavaScriptといった動的言語にも対応する予定です。すると,WPFの美しいユーザー・インタフェースを動的言語で簡単に操作できるようになります。

──ありがとうございました。

 どういたしまして。