総務省が2006年11月に設置した「次世代ブロードバンド技術の利用環境整備に関する研究会」の報告書案「次世代ブロードバンド技術の利用環境整備に向けて」が,5月11日に公開された。6月11日までパブリック・コメントを受け付けた後,6月下旬をめどに報告書を取りまとめる。今回の報告書案の概要と,今後の展開を総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 高度通信網振興課の臼田昇課長補佐に聞いた。

(聞き手は中道 理=日経コミュニケーション



総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 高度通信網振興課の臼田昇課長補佐
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研究会では何を議論したのか。

 総務省は「2010年ブロードバンド・ゼロ地域解消」を打ち出している。しかし,地域ごとに予算規模や地形,環境などが異なる。では,どうやったら,その地域の特性に応じたブロードバンドの導入ができるのか。この道筋を付けるのが今回の研究会の目的だった。

 報告書案では地方自治体などがブロードバンド導入のために利用可能な技術,そのコストを議論している。

具体的には。

 ブロードバンドというとADSLや光ファイバ,CATVを思い浮かべるだろう。今回の報告書では一般に使われているこうした技術だけではなく,将来可能な技術や,現在あまり使われていないが検討価値のある技術についても議論している。

 例えば,光ファイバではNTT東西などが提供しているGE-PON(gigabit Ethernet-passive optical network)以外にも,将来の技術であるOCDM-PON(optical code division multiplexing-PON)やB-PON(broadband-PON),G-PON(gigabit-PON)を議論している。特にOCDM-PONは利用可能距離を30kmまで延ばし,100分岐で1チャネル当たり100Mビット/秒の速度の提供が可能だ。収容局とユーザーの距離を長く取ることができるので,農村部などに光ファイバを引く際に,安価に導入できる可能性がある。

 また,長距離DSLの技術としてリーチDSLの活用にも言及した。ADSLは電話線の長さが4km以上あると減衰してしまい通信できなくなる。リーチDSLを使えば,10km程度でも使える可能性が出てくる。速度は1Mビット/秒程度と低いが,光ファイバが整備されるまでのつなぎの技術として活用できるのではないか。

 有線だけではなく,無線の検討もしている。無線の中には,WiMAXや無線LAN,HSPA(high speed packet access)などに加え,光無線通信,可視光通信,衛星通信も盛り込んだ。

光無線や可視光通信,衛星通信はどういった用途を考えているのか。

 光無線は登場してから久しいが,すでに1Gビット/秒で通信できるようになってきている。例えば,川や渓谷をまたぐ場合,有線だとコストがかかるが,光無線通信なら採算が取れるかもしれない。都市部でも,線路や道路によって線が引けない場所に,光無線が利用できるだろう。

 可視光通信が適用できそうなのは都市部の電波不感地帯だ。ビルの中や地下街などでの有力な通信手段になりうる。

 衛星通信は離島などで活用できるだろう。昔の衛星通信といえば,上りは電話線を使ってパケットを送るといった方式が一般的だったが,最近は上りも衛星通信を使って通信できる。下りの速度は数Mビット/秒だ。

報告書をまとめたことで見えてきた課題は。

 二つある。一つは複数の技術を組み合わせた場合の全体のコストが分かっていないことだ。例えば,山間の農村部まで100Mビット/秒の通信網を整備することを考えた場合,全路線を光ファイバで引くのは現実的ではない可能性がある。中継部分のどこかで光無線通信などを入れる方がいいケースもあるだろう。

 今回で,それぞれ単体のコストは分かったが,組み合わせのコストは未知のままだ。これを埋める必要がある。報告書の結論部分では実証実験をすべきだと提言している。

 もう一つは,優れた技術があるのに認知されていないがゆえに使われていないという問題だ。今回の報告書をまとめるにあたり,日本にしかない優れた技術が開発され,実用化されていることが分かった。しかし,利用は進んでいない。今回の報告書が,利用促進の契機になればと思っている。

 さらに世界では,ブロードバンドの整備がこれから本格化する。今回,報告書で検討した技術は,これからブロードバンドを導入しようとする国でも必要になるものだ。日本国内だけでなく,世界でも使ってもらえるような施策も必要だろう。