各種申請など人事ワークフローの入力のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を手掛けるラクラス。北原佳郎社長は、7年にわたって実際にサービスしてきた経験を基に、カスタマイズの容易さとセキュリティと操作性の高さの重要性を語る。(聞き手は中村 建助)

ラクラスの手掛けるSaaSはどのようなものなのか。

ラクラス 代表取締役社長 北原佳郎氏
写真●ラクラス 代表取締役社長 北原佳郎氏

 人事に関連する各種の申請などのワークフローをSaaSで提供するLacrasio(ラクラスイオ)がある。さらにLacrasioに加え給与計算などの業務までBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)で請け負うLacrasio+BPOも提供している。

 意外かもしれないが、人事関連業務の約8割は、正確なデータを収集するためのものだ。正確なデータが集まれば、後はバッチで処理すればよい。当社が手掛けるSaaSは、正確な人事関連データの収集を支援する。

 現在、2つのサービスを合わせて、20社ほどの顧客がいる。ラクラスを設立したのは2005年だが、提供しているサービス自体は、7年の実績がある。ラクラスは、ソフトバンク・グループの人事関連業務をシェアド・サービスで手掛ける企業からスピンアウトした誕生した企業であり、同グループ向けに長年サービスを提供していた。

どこに可能性を感じたのか。

 SaaSのほうが企業にとって便利だと判断した。初期投資がいらないだけではない。カスタマイズが簡単なうえに、ハードなどの設備を、サービス提供者と複数の企業で負担するようなものだ。当然、負担するコストは下がる。

 「規模の経済」が働くわけだ。複数の企業向けのサービスを1台のサーバーで管理する「マルチテナント」のメリットといえる。

保守性が低いとマルチテナントのメリットは下がる

 ただマルチテナントが可能なアーキテクチャであればよいわけではない。柔軟にアプリケーションをカスタマイズできなければ、マルチテナントによる効率化が実現しにくくなる。

 SaaSで提供するサービスは、もともとソフトなのだから、時間をかけて書き換えていけば、どんな要望でも満たすことができるのは当然のことだ。ビジネスとして継続するためには、カスタマイズの期間をできるだけ短くし、保守性を高くすることが重要だ。

カスタマイズの効率を高めるのは簡単ではない。

 当社では、顧客の要望に応じた柔軟なカスタマイズを可能にするため、アプリケーションをプラットフォームとカセットの2層に分けて開発している。プラットフォームが、申請や承認の基本的な動きを制御し、カセットの部分を差し替えることで、顧客の要望にこたえることができるようにした。ワークフローの申請段階を変更などは、カセットを変えるだけで可能だ。

 カセットとプラットフォームの変更は相互に影響しないようになっている。しかもカセットはコーディングなしで追加することができる。イベントモデラーという仕組みで要件定義を定義すると自動的にカセットのコードを自動生成できるようにした。

 ラクラスのSaaSを利用する顧客は、当社と共に業務要件を決めていく。その後の開発は当社が担当する。現在、20社の顧客の要望にこたえるため、200種類のカセットを用意しているが、1台のサーバーで問題なく処理できている。

どういった理由でこの方針を取ったのか。

 現在の方式のサービスを考えたときにはSaaSという言葉はなかったが、ビジネスの効率を上げることが成否のカギになることは認識した。どうすれば効率が上がるのかを考えた結果、ワンDB、カスタマイズ性の高さ、使いやすいユーザー・インタフェース(UI)、の3要素を実現することが重要だとの結論に達したのだ。

 カスタマイズ性を高めるため当時、最先端の技術だったUMLやルール・エンジンをアプリケーションの開発に当たって採用している。オブジェクト指向開発を取り入れた。

UIの良さも効率の高さに通じる

 UIが大事だと考えるのは、使いやすいものでなければ、トレーニングを含めたサポートのコストが増大するからだ。当社のSaaSは全社員を対象とする。使いやすいかどうかで大きくコストが変わってくる。

 これはWebブラウザを利用するサービスでは当然のことだともいえる。米アマゾン・ドット・コムの利用者は、ほとんどコールセンターに問い合わせることがない。使いやすいからだが、もし使いにくいUIが原因でコールセンターに問い合わせが増えれば、それだけオペレーターの人件費が増えて、効率が下がる。Ajaxを使うかどうかといったことは本質的問題ではない。

日本ではSaaSを利用する場合のセキュリティを重視する企業が多い。

 当然のことだろう。社員の人事情報を預かることもあり、当社もセキュリティには特に気を使っている。社内で管理するより安全だと思われるくらいでなければ、顧客に受け入れてもらえない。

 セキュリティ関連の認証を取得、維持するのは当然のこと、第三者による脆弱性調査も実施している。内部から情報が流出するケースも少なくない。社内で利用する端末にもシンクライアントを採用してサーバーでデータをすべて管理するなどの措置も取った。

ユーティリティーや企業間ワークフローに新たな可能性

今後、SaaSはどう進展していくと考えるか。

 人事とCRM(顧客情報管理)の分野は引き続き有望だろう。人事とCRMで管理するデータのなかには、ERP(統合基幹業務システム)と関係ないものがある。最終的に確定して、ERPに反映する必要のないデータと言い換えることもできる。

 他のシステムと分離して管理するのが簡単なので、SaaSを使いやすい。このほか、単純なユーティリティー機能に特化したサービスも増えるだろう。逆にERPによる処理が進む会計業務などはSaaS化が進まないのではないか。

 もう一つ、有望だと考えるのは企業間のワークフローにSaaSを用いることだ。SaaSは必ずと言っていいほどインターネットを使ってデータをやり取りする。1企業に閉じている必要はない。この方法ならメールと違って万が一の際の誤送信もなくなる。