NTTドコモが2006年9月から法人市場向けに提供を開始したスマートフォン「BlackBerry」。米フロリダ州オーランドでは,BlackBerryを開発するリサーチ・イン・モーション(RIM)が主催するイベント「Wireless Enterprise Symposium 2007」(WES 2007)が現地時間5月8日から開催されている。RIMの副社長で,日本市場の責任者を務める製品部門担当のジョー・カチ氏に,日本市場での手ごたえや今後の展開計画について話を聞いた。

(聞き手は武部健一原隆,オーランド発)



日本市場は携帯電話では先進国。世界市場と比べてどうか。

リサーチ・イン・モーション
副社長 製品部門 ジョー・カチ氏

 日本は世界で第2の経済大国。技術を輸出する点では非常に難しい市場だ。昨年9月,NTTドコモと提携して「BlackBerry」の提供を開始したが,我々の努力が報われた結果だと思っている。ただ,日本市場は外国企業が参入して失敗した例が実に多い。日本市場は特殊性があり,いろいろと学ばなければならないことが多い。基本的には長期的な観点で日本でのビジネスを考えている。

日本でターゲットとしているビジネスパーソンはどういうイメージか。

 我々は非常に幅広い意味でビジネスパーソンを定義している。言い方を変えればプロフェッショナルな人々だ。(日本のビジネスパーソンは)非常にストレスの多い環境に置かれていて,多忙な毎日を過ごしている。我々はそういう人に対し,時間の節約であったり,生産性を向上させるソリューションを提供できる。BlackBerryはセキュアな環境で電子メールをいつでもチェックできる。

いつでもどこでも電子メールがチェックできる環境は,言い換えればどこでも仕事をさせられるということ。逆にストレスにならないか。

 私はその意見には反対だ。受け取りたくないときは切っておけばいいし,逆に受け取りたいときはいつだって受け取れる。3分だって,5分だって,10分だって時間を有効に活用できるという点が重要だ。今夜だって私はディナーに出かける。しかし,行く前からディナーが終わった後にホテルに戻って,パソコンを立ち上げ,ログインして,電子メールをチェックするといったことをまったく心配する必要がない。

 自分で時間をコントロールできる,これが大事なポイントだ。私も家族と過ごすときは切っている。もっとも,私は日本には何度か行ったことがあるものの,日本に住んだことはないので(そう思ってしまう)日本の企業文化が分かっていないのかもしれない。ただ,携帯電話だったら鳴ったらでなくてはいけないだろうが,BlackBerryは携帯電話とはまたちょっと違う。BlackBerryは日本のビジネスパーソンに対しても,時間をコントロールできるツールだということを信じてやまない。

提携しているNTTドコモに対して何か要望はあるか。日本のBlackBerryは世界で一番高い利用料金だと言われているらしいが。

 NTTドコモはすばらしいパートナだと思う。巨大企業で(市場に対する)影響力もあるし,我々としても良い関係が築けてうれしい。BlackBerry Enterprise Serverの設置など,これからシステム・インテグレータの強化が必要になってくるため,これについてはNTTドコモと既に話し合いをしている。それ以外にも,NTTドコモとは非常に頻繁に情報交換をしている。

 日本の特殊な文化,技術についてもいろいろ学び,常に日本市場で最適な形は何かということを模索中だ。確かに日本市場は変化に対して非常に時間がかかる点は否めないが,長期的に見ているので特に気にはしていない。我々は世界中で約200社以上のキャリアと付き合いがあり,BlackBerryに関するノウハウを蓄積している。我々にないのは日本市場におけるノウハウで,それは逆にNTTドコモが持っている。NTTドコモと情報交換をしながら一つひとつ対処していく。

オムロンとローカライズで技術提携していると聞いているが,日本語入力の部分だけなのか。

 オムロンとはローカライズの部分以外でもやっているが,守秘義務契約を結んでいるので詳しいことは言えない。少なくとも日本語化の部分では,一緒にやっていることは認める。

北米では有名なBlackBerryも,日本での知名度は低い。日本では現在,ほとんど指名買いと聞いている。BlackBerryを知らない企業にどうやってリーチしていくのか。

 まず大企業から攻め,それから中小企業に広げていく戦略をとっていく。一番効果的なのは大規模な広告宣伝戦略だろう。我々は日本市場と同じく,何もないところから立ち上げてきた実績がほかの国でたくさんある。日本市場でも同じように普及させていく自信がある。とにかく使ってみてもらうことが重要だ。1日か2日使えば,すぐにBlackBerryが優れていることが分かってもらえると思う。BlackBerryはいつでもどこでも仕事ができるという,ビジネスのスタイルを変えた最善のモバイル製品という自負があるからだ。

 また,日本はグローバルに展開している企業が多い。こうした企業の場合,(日本以外の国で人気を博している)BlackBerryが何かということは既に熟知しているはずだ。そういう企業はトップダウンで広げて行けると思う。NTTドコモの子会社であるドコモUSAが米国にある日本企業の支社に対してマーケティングを展開しているが,これも非常に効果的だと思っている。

ほかの国でも同じように時間をかけて普及させてきたのか。

 もちろんほかの国も長期的な観点でやってきたが,日本では特に時間をかけてやっていくつもりだ。日本市場が特殊であることは十分理解しているし,何より日本は技術大国だ。注意深く,間違いなくやっていくつもりだ。日本のビジネスパーソンが求めるものは何か。それを学びながら成功させたい。日本における初期の段階は,企業向け市場がターゲットだ。ただし,日本では企業向け市場がまだ小さなセクションに過ぎず,開拓があまり進んでいないと感じている。もっとはっきり言えば,コンシューマ市場では非常に進んでいるが,企業向け市場はむしろ遅れている。こうした小さな市場から始めて,徐々に広げていければと思う。

日本のビジネスパーソンに対して何か一言あれば。

 Try it !!。とにかく使ってみてほしい。世界で使っている人の90%以上がBlackBerryを手放せなくなると言っている。日本のビジネスパーソンも使ってみれば,いかに便利であるかを理解し,手放せなくなるはずだ。