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日経コンピュータ

SaaSはアプリケーションを使いやすくし世界を変える

米ガートナー ITサービス リサーチ バイスプレジデント ベン・プリング氏

2007/05/07
中村 建助=日経コンピュータ

 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)は、ソフトの世界に登場した新たなアーキテクチャであり、既存のアプリケーションに対する企業の不満を解消するものだ。米ガートナーのITサービス担当のアナリストであるベン・プリング氏はこう語ると同時に、SaaSがシステム開発の世界で起こす変化についても示唆する。(聞き手は中村 建助)

ガートナーは今後数年の間、ソフトウエア市場でSaaSが急速に成長すると予測しています。

米ガートナー ITサービス リサーチ バイスプレジデント ベン・プリング氏
写真●米ガートナー ITサービス リサーチ バイスプレジデント ベン・プリング氏

 SaaSが成長する理由は複数あります。まず企業が従来のクライアント/サーバー(C/S)・システムに不満を感じていることです。技術そのものよりも、運用していくうえでのコストに問題があります。

 それから新しい技術の登場で、業務アプリケーションがSaaSに適したものになってきたということもいえるでしょう。Web2.0やAjaxなどによって操作性が高まり、ネットワーク経由で提供できるアプリケーションの質が変わってきました。

SaaSは使いやすさでCRMを制した

 これらの技術によって、従来よりも使いやすいアプリケーションを提供できる、少なくともSaaSの提供者はこう考えています。

従来のC/Sシステムで企業が抱えていた不満を、SaaSがどう解決するのか、もう少し詳しく説明してください。

 一つの例として、CRM(顧客情報管理)システムの世界で起きたことを説明しましょう。元々、この分野では米シーベル・システムズ(注:2006年に米オラクルが買収)が一番有力な企業でした。中規模から大規模の企業を対象にしたソフトを販売しており、ソフトのライセンスだけで100万ドル、導入作業や保守を含めると3年間で500万から1000万ドルくらいかかっていたと思います。これが従来のモデルです。多くの企業が、果たして投資に対して十分なメリットがあるのかどうか悩んでいたのです。

 これに対して、米セールスフォース・ドットコムが提供するSaaSは、機能的に劣る面もあるのですが、ずっと安く使いやすい。他の企業の提供するCRMが上手く使われてないことに気づいて、セールスフォースは他社とは違うサービスを、CIO(最高情報責任者)に提供し始めた。3、4年にわたって競争が続きましたが結局、セールスフォースが勝ちました。

 セールスフォースのSaaSであるSalesforceを見ると分かりますが、消費者にとって馴染みのあるWebの画面を上手く取り込んでいる。米グーグルや米ヤフー、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の米マイスペースなどが提供しているのと同じスタイルです。他のCRMの業務アプリケーションとは大きく異なります。

既存のパッケージの販売余地はそれほど大きくない

 CRMシステムで非常に複雑な処理を実行している企業にとっては適切ではないかもしれませんが、そうでない企業にはこれで十分です。

 いうならばシーベルの製品は、BMWの7シリーズのようなものです。機能は豊富ですが非常に高価です。大半の企業が望んでいるのは、トヨタ自動車のカムリのような製品です。安いけれどもシンプルで必要な機能はそろっている。だからSaaSが受け入れられるのです。

既存のソフト会社にとっては厳しい時代になってきたのですか。

 例えば独SAPのように有力なERP(統合基幹業務システム)のベンダーでも、ライセンスを新規の顧客に販売する余地はそれほど大きくありません。既存の顧客数が大きくなっていて、ソフトのバージョンアップやサービスの売上比率が高まっている。新規の販売はそれほど大きくはないわけです。ビジネス・チャンスがあるのは、現状を代替するSaaSのようなものなのです。

SaaSが広がっていくことは間違いないのでしょうが、可能性はどのくらいあるのでしょうか。

 ソフトウエアが新しいアーキテクチャの時代に入ったことには同意してもらえると思います。今後は、既存のアーキテクチャの置き換えが進むことになります。

 少し歴史を振り返って考えてみましょう。

C/SからSaaSの時代に

 1989年にコンセプトが登場してから、C/S中心の時代が2003年くらいまで続きます。14年くらいあるわけです。この間に企業情報システムの3分の1程度がC/Sシステムになりました。C/Sは広がりましたが、メインフレームはなくなりませんでした。メインフレームが企業にとって意味のあるものだからです。

 C/Sによる変革は大きなものでしたが、それでも市場の3分の1しか得ることができなかった。SaaSにも同様のことが言えます。C/Sと同じくらい成功したとしても、15年後に市場の3分の1がSaaSに変わるだけです。

 昔のアプリケーションは簡単に消えてなくなるものわけではないのです。普通は、新しいものと融合していきます。SAPや米オラクルのERPに投資した企業にとって、これらのアプリケーションの利用を止めるというのは不合理なことなのです。

 導入にかかったコストを考えると、すべてを廃棄するという選択肢はまずない。すべてを新しいアプリケーションに変えようという投資余力も意欲もないのが、一般的な企業の姿です。

 すべてが一夜で変わるわけじゃありません。現実には、既存のシステムと新たに導入するSaaSを組み合わせて使うことになります。ITマネジャーは、既存システムとSaaSを同時に管理することになります。

リーダーはセールスフォースだが新顔も多い

市場のリーダーは、やはりセールスフォースでしょうか。同社はSalesforceだけでなく、SaaSのプラットフォームであるAppExchangeも展開しています。

 純粋なSaaSの提供者という意味では、セールスフォースが一番大きいのは事実です。米ネットスイートはセールスフォースに比べると小さい。オラクルやSAPも厳格に定義したSaaSの分野では、小規模なビジネスしか展開していません。もっとも市場がこれから成長していくなかで、どのような変化が起きるのかはまだ分からないです。C/Sの時代に成長した企業は、SaaSに対応できないという過激な意見もありますが、こう言い切る材料はないと思います。

米国ではSaaSの範囲がどんどん広がっているようです。

 CRMに続いて、人事や調達・購買の分野でSaaSが急速に浸透しています。Webを使ったテレビ電話会議のサービスを提供するWebExを最近、シスコが買収しましたが、こういったコラボレーションの分野もSaaSに適しています。

 特に興味を持っている企業として、調達・購買関連のSaaSを手掛けるRearden Commerceの名前を挙げたいと思います。私だけでなく、米アメリカン・エクスプレスが出資したことで広く注目を集めています。Reardenは、Web2.0の要素を全面的に取り入れた先進的なアーキテクチャのSaaSです。米アップルのiTunes Storeと似たコンセプトだと言えばいいでしょうか。多くのサプライヤのサービスを、Rearden上で利用できるようにしています。

 同社のサービスを使えば、大企業の営業担当者などが出張の際に、飛行機やホテルの予約などを一つの画面で済ませることができるようになります。それもiTunesや米アマゾン・ドット・コムのように、何回かクリックするだけですべてが完了する。Reardenはこれを、「サービスプロキュアメント」と呼んでいます。

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