写真1 鹿児島大学の升屋教授
写真1 鹿児島大学の升屋教授
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 国立大学法人鹿児島大学は、鹿児島市内のキャンパスと約100km離れた硫黄島の間を結んで、離島にブロードバンドを導入する実験に取り組んでいる。2007年度はブロードバンド化を加速するため、WANの高速化に乗り出した。同大学でプロジェクトに携わる学術情報基盤センターの升屋正人教授にその狙いと効果を聞いた。

なぜ離島のブロードバンド化に取り組もうと考えたのか

 国内にブロードバンドが順調に普及する一方で、離島はその流れに取り残されている。小中学生がブロードバンドを使いこなすのが当たり前の時代であり、島の子供たちにも利用してもらいたかった。

 この問題を解消するため2003年度から取り組んできた。そして、2006年度に総務省から研究費用を得て、硫黄島での実験を本格的に始めた。硫黄島はISDNの常時接続サービスである「フレッツ・ISDN」すら利用できないエリアだ。

最大の障壁は

 やはりインターネットの上流とつなぐ回線帯域の幅が限られることだ。硫黄島では鹿児島市とつなぐ専用線を1回線しか確保できなかった。それも1.5Mビット/秒だ。光ファイバではなく無線で伝送しており、NTTの固定電話や携帯電話の回線と共用しているからだ。

 そこで、この1.5Mビット/秒の回線をフルに活用するため、2007年度には伝送するデータを最適化するWAN高速化装置を導入してみることにした。

高速化装置は帯域確保にどの程度貢献している

 十分な効果を出している。WAN回線は1.5Mビット/秒だが、おおよそ3M~6Mビット/秒程度のスループットが得られている。テキストなど圧縮できるファイル形式のデータは効果が大きい。スループットが10Mビット/以上の場合もある。

 機器は複数のWAN高速化装置を評価して最終的に米ブルーコートシステムズの「Blue Coat SG」を選択した。特にデータをキャッシュできる機能を評価している。硫黄島側のWAN高速化装置によく使うコンテンツのデータを保持しておく。わざわざ細い無線のWAN回線を経由してデータを取りにいかなくても済む。例えば、ヤフーのように多くのユーザーが利用するサイトの閲覧で効果が出る。

導入したブロードバンドの今後の活用は

 硫黄島の各世帯への伝送は無線LANを利用し、50ある全世帯をカバーしている。これを利用して、来年度にも無線LAN対応のIP電話端末を導入する予定だ。島民同士であったり、島外の通話に使うことができる。オープンソースのIP-PBXである「Asterisk」の活用も検討している。

ビジネスに利用することは可能か

 可能だろう。ブロードバンドを導入した離島にプログラマが移住してきたケースがある。インターネットの常時接続があれば、どこでも仕事ができるからだ。島の伝統芸能や自然など特色のあるコンテンツを発信する道も開ける。また、看護師しかいない離島では、画像データを送信して医師の助言を得ることもできる。