システムの構成と仕組みを教えてください。

 スポットキャストの送信機は,変調器と無線機の大きく2つのコンポーネントからなっています。それに加えて,何時から何時まで何番のコンテンツを流すといった,送信内容を制御するアプリケーションを備えています。変調器の部分はLSIで作っていますが,冒頭にお話した受信用のLSIの技術・ノウハウを転用できたので,短期間で開発することができました。微弱電波しか出さないので,無線機の部分は非常に小さく,試作機は装置全体も小さくファンレスで省電力です。店舗の中などで,あちらこちらに設置する場合でも置きやすいと思います。実際の製品化に当たってどういった形状にするかは,今後ユーザー企業との協議の中で,具体的に検討していくことになります。

 試作機では,送信するコンテンツをメモリーカードを介して送信機に取り込む仕組みになっています(図1)。試作機にはLANポートも備えていますが,現状はメモリーカードを使ってオフラインでデータをやり取りしています。試作機でメモリーカードを使った理由は2つあります。1つは単純で間違いないシンプルな仕組みということです。メモリーカードを送信機に挿し,電源を入れるだけで使えるわけです。もう1つはスタンドアロンで使えることです。イベント会場など常設のネットワーク環境がない場所での利用を想定しています。

図1●「スポットキャスト」のシステム構成
図1●「スポットキャスト」のシステム構成
試作機では,コンテンツ作成ツールでオーサリングした映像と文字放送のデータを,メモリーカード経由で送信機にコピーして使う。将来的にはネットワーク経由のデータ配信も計画している。

 一方,今後はネットワークを使って配信する仕組みも作り込みたいと思っています。データ更新のために店員がメモリーカードを持って店舗内を走り回るのは来店客のジャマになりますし,複数の送信機に対してコンテンツを一斉に変える作業は大変です。さらに本部から多くの店舗の送信機をネットワークで一括制御するといった使い方にも対応できるように,商品化に向けてネットワーク対応を検討しているところです。

写真3●携帯電話で「スポットキャスト」のワンセグ放送を受信
写真3●携帯電話で「スポットキャスト」のワンセグ放送を受信
映像だけでなく,画面下の文字放送(データ放送)も受信できる。
 メモリーカードの中には,H.264形式の映像情報と,文字放送(データ放送)の情報を記述したBML(Broadcast Markup Language)データが格納されます。ワンセグに限らず,地上デジタル放送の基本的な編成です。あとは,「何時から何時まで何番のコンテンツを放送する」という制御命令が入ってるわけです。これを送信機が微弱電波で送出し,ワンセグ受信機で映像と文字放送として受信します(写真3)。

 コンテンツの元になるハイビジョン映像などを編集する環境は,プロの現場には整ってきています。一方,H.264とBMLのデータを組み合わせてワンセグのデータ形式に出力できるようにするツールは世の中にあまりありません。富士通では地上デジタル放送で使う,映像と文字放送を組み合わせた形式のデータを「MUX-TS(マルチプレックス・トランスポート・ストリーム)」と独自に呼んでいるのですが,こうしたデータを作れる環境は放送局などに限定されています。

 スポットキャストの製品化に当たって,データ作成の部分は富士通が何らかの形でコミットしなければいけないと思っています。当初は,映像を顧客から受け取って,MUX-TS形式にオーサリングして返すサービスとして提供することになるでしょう。