首都圏の交通機関で「PASMO」の利用が始まり、セブン&アイ・ホールディングスなどの流通大手が電子マネー事業に参入する2007年は、電子マネーの「新・元年」とも言われる。そこで電子マネーの活用に取り組んでいるいくつかの企業に、これまでの手ごたえや今後の取り組みなどを聞いた。第1回は、おサイフケータイを活用する日本マクドナルド。

 

日本マクドナルドは2月下旬、電子決済機能が付いた携帯電話機「おサイフケータイ」の活用でNTTドコモと提携しました。

日本マクドナルド 執行役員 前田信一 情報システム本部長(以下、前田氏) 電子マネーの一般的な動機づけとしては「小銭が要らなくなる」「決済時間の短縮による生産性の向上」「客単価が上がる」というものがあります。このうち、ファーストフード店としては、決済時間の短縮は生産性の向上にはつながりません。コンビニエンスストアではレジ前に立ったときに購入商品が決まっているので効果がありますが、ファーストフード店ではレジ前に立ってから商品を選びます。決済時間が占める割合は相対的に小さいのです。

 客単価も、そう上がるわけではありません。ガソリンスタンドでは、カード払いの方が単価ははるかに大きいといいますが、外食産業では一度の食事の量に上限がありますから、単価の上昇はそれほど期待できません。

 それではなぜおサイフケータイの活用を決めたかといえば、社会の流れが電子マネーに向かっているからです。電子マネーを拒んだとしても、ネガティブインパクトしか残らない、というのが当社の結論でした。

現金と違って手数料の支払いも生じますし、決して積極的ではなかったということですね。

前田氏 今では、せっかく取り組むならメリットを作り出そうと発想を転換しています。そこでいろいろと考えた結果、プラスチックカードには魅力が薄いが、おサイフケータイなら販売促進策をいろいろ仕掛けられると考えました。一度の来店時の客単価を上げられないなら、来店頻度を上げようという発想です。

 それに、これまでのクーポン券の主な利用者は主婦層で来店頻度の向上に役立っていますが、若者層には訴えられませんでした。電子クーポン券を携帯電話機に配れば、若者層も呼び込めます。

双方向のメディアなのでCRMのツールとして活用できる、ということなります。同じ双方向のメディアでもパソコンとの違いは何でしょうか。

前田氏 パソコンを使っても似たようなことができますが、パソコン利用のマーケティングは定性的な嗜好しか分からないといえます。携帯電話機なら、それに時間、場所などの要素を加味できます。例えば、平日の午前中に雨が降っていたら、いつも朝に立ち寄るオフィス近くの店舗から『雨にぬれずにお食事をいかがですか』といった案内を送ることができます。

 これも一例で、当社としては決済とは離れたところでいろいろと活用法を模索しています。決済は、あくまで店舗に来たという痕跡を残すものと位置づけます。

来店時の購買情報や来店頻度など、少額決済でもデータマイニングができるようになるということでしょうか。

前田氏 本当にできるのかどうかは未知数です。クーポンが出発点で、新商品の反応などが短時間でできるというのが次のステップです。

 スーパーやコンビニでも、購入時にレジで性別や年齢層などを打ち込んでいるところがありますが、トランザクション・データだけでなく、メール・アドレスをいただいて会員になってもらわないとメリットがないと考えています。だから、プラスチックカードではなく、おサイフケータイを使おうという結論に達しました。

システムの投資規模はどれくらいになりますか。

前田氏 まずはおサイフケータイのICカード情報を読み取るリーダー/ライターの配備だけで数十億円になりそうです。現在店舗数は3800ほどあって、各店舗のレジ台数は3~4台で合計1万台以上。リーダー/ライターの価格が1台10万円とすると、それだけで10億円を超える計算です。

 当初の費用はこれが最大ですが、アプリケーションの開発費用の占める割合が高くなってくるでしょう。電子マネーの手数料も、サービスが始まる10月まで、これから業者と激しくやりあうことになります。

 2007年秋から導入を始め、2008年は面展開を進めます。2009年の頭には何かしら見えてくるのではないかと考えています。

(聞き手は菊池 隆裕=日経コンピュータ)

 新段階に突入した電子マネーに関する記事「拡大期に入った少額電子決済」は、『日経コンピュータ』4月2日号でお読みいただけます。