東京都知事 石原 慎太郎氏
東京都知事 石原 慎太郎氏
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 4月8日に都知事選3選を果たした石原慎太郎氏。過去2期での「一番いい仕事」は、ディーゼル車規制でも外形標準課税の導入でもなく、複式簿記・発生主義を 取り入れた会計制度の改革だと言う。都では他の自治体にさきがけて2006年に複式簿記・ 発生主義に対応した財務会計システムを稼働、従来より4カ月早く、2007年8月には 複式簿記・発生主義に基づいた決算を出せるようになった。石原都知事に公会計 改革に基づく財務会計システム導入の狙いを聞いた。
(インタビューは3月1日に実施、聞き手:本間 康裕=編集委員 写真:吉田 明弘)

※ このコンテンツは『日経BPガバメントテクノロジー』第15号(2007年4月1日発行)の「特集2 東京都の公会計改革 複式簿記に対応したシステムを活用」として掲載された記事の一部です。


2006年度から、東京都の新たな公会計制度(注1)が正式にスタートし、財務会計システムも動き始めました。導入の狙いは何ですか。

(注1)従来の自治体の標準的会計制度である単式簿記・現金主義会計に加えて、複式簿記・発生主義会計も取り入れた。詳細は「東京都の新たな公会計制度」。

石原 基本論ですが、税金がいくら入ってくるかだけでなく、どう使ったかを検証しないといけない。それには複式簿記・発生主義会計制度の導入と、それを支えるシステムが不可欠でした。最初の選挙(1999年の都知事選)の時に「バランスシートを作り、複式簿記・発生主義会計を導入します」と宣言しました。

 本当は、僕は公認会計士になるつもりだったんです。父親が死んでしまって、お金を稼げる職業に就かなきゃいけないというので、父親の上司が会計士を薦めてくれた。それで、一橋大学に行って会計士になるための勉強をしました。ところが私には全く不向きで、半年間勉強して会計士は断念しました。

 ただこういう経験があるので、会計に関しては漠然とした知識や興味はあった。実は国会議員時代、入閣した時に、会計制度を変えたらどうかと閣議で何回か提案したけど、実現しなかった。国会の決算委員会にも出ましたが、本当に形式的でいかにお金が使われたかということを本気で検証しない。来年の予算を決めるのに、関わりなしに3年も前の違う内閣時代の決算が論じられる。これじゃあダメだと思っていましたね。

2002年に新たな会計制度を導入すると言明して、正式スタートが2006年4月。時間がかかりましたね。

石原 どんな制度にすべきかの研究に時間がかかりました。自治体にとってアセット(資産)とは何ぞや、から議論しましたから。後から続く人はこうしたものはショートカットできますが、最初は何でも大変です。

■新システムを活用し、決算はできるだけ早く出す

新しい財務会計システムによって、2006年度決算の財務諸表が、従来より4カ月早く今年8月に出る予定です。都政にどう生かすのですか。

石原 8月に(複式簿記・発生主義会計に基づいた)決算が出れば、次年度の予算編成に生かせます。もともと決算は、可能な限り早く出すべきなんです。1年後に決算が出てきても、もう次年度の予算編成は終わっている。前年度のお金の使い方を検証せずに予算を決めるから、無駄な使い方しかできない、という悪循環だった。新会計システムを使えば、これを断ち切ることができる。

 また自治体は、これまで毎年同じくらいの予算を付けて、使わないと減らされるから全部使い切るという、訳の分からないことをやっていた。2月、3月の年度末にやたら工事をやるのは、その象徴です。複式簿記・発生主義会計をやれば、減価償却や負債が明示され、事業の費用対効果がより正確に分かります。ですから、無駄を解消できる可能性がある。

 つまり、東京の潜在的な経済力をより有効に使っていくためには、新たな会計制度とそれを支えるシステムが必要だったわけです。都では毎年、公認会計士に依頼して包括外部監査(注2)を実施していますが、厳しい外部監査を入れても、徴収した税金をどう使ったかを検証しないと、十分でない面がある。東京都知事になって、いろいろなことをやってきましたけれど、一番いい仕事が会計制度の改革だと思っています。

(注2)東京都は毎年、公認会計士を監査人に指名し、包括外部監査を実施しているが、監査テーマは毎年3~4項目程度に限られる。詳細は「東京都監査事務局>包括外部監査」。

システムの開発に22億円かかりました。年間の運用経費は8億円かかります。

石原 都の開発したソフトウエアなどは、他の自治体にも無償で提供します。他の自治体で使ってくれれば、日本全体がよくなるわけですから。開発経費の22億円は、そのための投資も含めてのものだと思っています。運用経費の8億円は、そのくらいはかかるだろうという認識です(注3)

(注3)旧システムの運用経費は年間13億円。年間5億円のコストを削減できた計算になる。