オンラインの百科事典「Wikipedia」(ウィキペディア)の創始者であるジミー・ウェールズ氏(写真)が来日した。同氏は,何千というウィキコミュニティのホスティングを主要事業とする事業会社ウィキアの会長を務める。このウィキアでは今,新しい“オープンな”検索エンジン(関連サイト)を開発中だという。この検索エンジンの概要などについて聞いた。

(聞き手は田村 奈央=日経NETWORK



なぜ,“オープンな”検索エンジンが必要と考えたのか。


Wikipedia創始者のジミー・ウェールズ氏
[画像のクリックで拡大表示]
 私は検索エンジンをインターネットのインフラストラクチャの一部と見なしている。そのため,インターネットが提供するその他の機能と同様に,オープン化され,透明性があり,無償のライセンスとして提供されるべきだと考えている。ウィキアの開発する検索エンジンは,私が関わっている他のプロジェクトと同様に,コピーや修正,再配布が可能なフリーライセンスとして提供する予定だ。

 さらに,例えば Apache(アパッチ) に対して多くの企業がエンジニアリング資源を提供するのは,それが自分たちのビジネスにメリットをもたらすと考えているためだ。マイクロソフトが完全にWebサーバーのプラットフォームを支配するよりも望ましい状況を作りたいということでもある。我々の検索エンジン開発の場合にも同じような状況が見られる。多くの企業は,GoogleやYahoo!が非常に大きな力を持つことに対して懸念を抱き,そのために我々を助けると表明している。

 また,世の中には多くの“二軍”の検索関連会社が存在する。彼らは,できれば独自の技術でもってGoogleなどに勝ちたいと考えているが,現実的には大手の検索エンジンとは競合できないことを認識している。そこで,オープンソースの検索エンジンという代替案によって,現在の状況を変え,大手と競争したいと考えている。

収益モデルは?

 Googleのような広告モデルを想定している。将来的には検索エンジンから得た収益の一部を,ウィキメディア財団にも寄付する予定だ。

開発体制を教えて欲しい。

 開発プロセスは,LinuxやApacheなどのオープンソース・ソフトウエアと同じような仕組みになる見通しだ。ウィキアでは現在,米国とポーランドで20人の開発者を採用しており,開発センターはポーランドに置いている。開発者の採用にあたって重視するのは,オープンソース・プロジェクトや,ボランティアの開発コミュニティでの経験,つまりコミュニティ管理の能力だ。オープンソース文化を理解している人ほど,多くの人の協力を得て,より良いソフトウエアを開発することができる。こうした能力はバグのフィードバックなどにも大いに役立つ。

リリース時期はいつ頃になるのか。

 初期バージョンは,2007年末までにリリースされる見通しだ。もっとも,それは決して優れたものではなく,初期のWikipediaがたった一つの記事から始まったように,基本的な機能からスタートすることになるだろう。現在の大手の検索エンジンに匹敵する十分な機能を備えるには,1,2年かかると思う。

 Googleの登場以前にはあまり良いとは言えなかったインターネット検索の質は,ここ2,3年の間で一定のピークに達したのではないかと思う。一方で,検索の領域における技術的な革新はあまり見られなくなった。オープンソース・プロジェクトからどれだけの技術的革新が生まれるかは分からない。だが,われわれがサーバーなどのマシンを提供することで,何か新しい革新が生まれることを期待している。