アクセンチュア・パブリック・サービス・バリュー・インスティチュート ディレクター グレッグ・パーストン氏
アクセンチュア・パブリック・サービス・バリュー・インスティチュート ディレクター グレッグ・パーストン氏
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 民間企業は株主価値、収益性、ROIを見ることで、業務を遂行する上でパフォーマンスが上がっているかどうかを確認できる。だが、官公庁・公共機関においては、これまでこうした指標が確立されていなかった。例えば、バランススコアカード(BSC)は、組織内の目的の達成度合いを見ることはできるが、公共サービスを提供する組織として高いパフォーマンスを出しているかどうかを見ることはできない。民間企業でもBSCは活用されているが、株主価値などの指標と併せて活用されている。

 行政を評価するための従来型の方法には、パフォーマンスを計るという視点が欠けていたのではないか。入力-出力の関係をその組織内でしか見ていない。つまり、どのようなサービスが外部(国民)に対してできているかを見ていないということだ。公共サービスの成果指標は、最終的に価値を提供できたかどうか、つまり、国民の生活が向上したか、地域社会の生活の質が改善したかを見るべきだ。また、アカウンタビリティの観点からも、内部指標より成果ベースの指標で情報を提供したほうが、国民にとって分かりやすいといえる。医療サービスなら病床数ではなく国民の健康状態が向上したかを、教育においては教師が何人いるかではなく実際の教育レベルが向上したかで成果が計られるべきだ。

 米国では、10年ほど前から「パブリックバリュー(公共価値)を基に公共機関の行動は決まるべきであり、それを計る物差しが必要だ」という考えに基づく研究が、ハーバード大学のマーク・ムーア教授らを中心に進んできた。効率、コストが重要でないと言うわけではない。しかし、目的を果たせたかどうかとは別問題である。提供すべきサービスが本当に提供できたかを見ないと、全体像としてサービスの価値をとらえることはできない。

■コストと成果の関係を見ることで、政策を評価

 実際に、こうした考え方を取り入れている行政機関も増えてきており、交通輸送、移民、郵便局、警察など成果が分かりやすい部門を中心に様々な組織で採用されている。例えば、アリゾナ州の税務部門では、「税収入を最大化する」「納税者の負担を最低限にする」など4つの成果を設定し、どの成果を達成するためにどの程度のコストを使うのかを見ていった。その結果、「納税者の負担軽減」の部分を重視して人も予算もかけていたが、「申告漏れ・申告逃れ対策」が軽視されていたことが見えてきた。そしてその間、税収は下がっていた。そこで、より多くのリソースを「申告漏れ・申告逃れ対策」に振り分けてバランスを取ることで、税収入が向上したのである。

 コスト・効率と成果の関係について経年変化を追っていけば、公共サービスとして提供できる価値が年度によって減少しているのか、改善しているのかを見ることができる。また、政策課題として優先順位が与えられる指標があるにしても、全体としての成果を列挙することで、他の指標も常に念頭に入れながら全体としての価値の最大化を図っていくことができるようになる。政策の変更によって価値が上がったのか下がったのかも見ることもできるし、過去のデータを分析して今後の予測も可能になるだろう。

 もちろん、設定した成果指標自体が間違っていることもあるかもしれない。とはいえ、それ以前に、「何を目指すのか」を明確にせずに仕事をするのは良くないことだと言えるだろう。(談)

グレッグ・パーストン(Greg Parston)

アクセンチュア・パブリック・サービス・バリュー・インスティチュート ディレクター。ロンドン大学で博士課程を修了。1988年に英国でNPO組織Office for Public Managementを共同創業し、2003年まで同団体CEO。2000年より英国財務省パブリック・セクター生産性委員会の委員を務める。公共関連の様々な組織のメンバーを歴任したほか、ニューヨーク大学及びロンドンのキングス・ファンド・カレッジで教授、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院で客員講師として教鞭を執った。著書に『Unlocking Public Value』ほか。