主にアジア地域を結ぶ国際通信サービスを提供している香港のアジア・ネットコム。この地域を結ぶ海底ケーブル「EAC」を運用する事業者でもある。昨年末に台湾南沖で発生した地震が海底ケーブルに及ぼした影響や,今後のケーブル増強計画を日本法人のチーフ・オペレーティング・オフィサー(最高執行責任者)のジョン・ギャレット氏に聞いた。

(聞き手は山崎 洋一=日経コミュニケーション



サービス基盤の近況は。


アジア・ネットコム・ジャパンでチーフ・オペレーティング・オフィサー(最高執行責任者)を務めるジョン・ギャレット氏
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 当社は世界各地にポイントを持つグローバル・ネットワークを持つ。これらを使って専用線,インターネット接続,IP-VPNなどのサービスを提供している。ブラザーやシャープといったユーザー企業がいる。

 現在,株主である投資家グループであるコネクトホールディングスが,海底ケーブル・システム「EAC」および「C2C」の統合に向け協議を進めている。EACは当社のプライベート・ケーブル。C2Cは,当社に出資している投資家グループが投資している別の会社が運営している。

 日本,香港,シンガポールといった地点を中心に,EACとC2Cの統合を進めていくことになるだろう。どの部分,どのレイヤーで統合するかは検討中だ。

昨年末に台湾沖で発生した地震で,同地域を通る海底ケーブルに大きな被害が出た。

 EACケーブルもファイバが切断されたが,独特の構成を採っていたため顧客にサービスを提供し続けることができた。EACは三つの“リング”が複合的に重なった構成を採っている。一つは香港からシンガポール,フィリピン,台湾を回って香港に戻るリング。もう一つは香港から韓国,日本を回って香港に戻るリング。後者のリングは,香港から韓国に向かう途中で分岐して台湾に向かうケーブルがあり,同時に日本から香港に戻るケーブルの途中にも分岐して台湾に向かうものがある。この二つの分岐を通り香港と台湾と結ぶ経路が三つ目のリングとなる。

 今回の地震でEACは,台湾沖を通る2本のケーブルが切れてしまった。通常,リングは2カ所でケーブルが切断してしまうとネットワーク自体が隔離状態になる。ところがEACの場合は,(台湾からフィリピンへ向かう)1本が残り,なおかつEACは複数のリングで構成されていた。このため,通信がすべて途切れることはなかった。例えば日本と香港の通信を例によると,(日本から台湾の間は通信できていたため,そこから)フィリピン,シンガポールを通って香港にいたるケーブルが使えていた。運が良かったとも言えるがケーブルの数が多いため,残る確率が高かったこともあるだろう。

 結果的に地震の後に北アジアと南アジアの間でつながっていたのはEACだけだった。また当社は地震の前にキャパシティを増強しており,ユーザー企業や通信事業者といった既存の顧客だけではなく,(地震で通信が途絶してしまった)新規の顧客にもキャパシティを提供するよう務めた。アジア地域におけるEACのケーブル設計の強さは今回の地震で示されたと思う。

 現在EACケーブルの修理はほとんど終わっており,(パフォーマンスも)地震の前に戻っている。

今後の海底ケーブル増強策は。

 米国から南アジアへのトラフィック増強と耐障害性向上のため,最近,「EACパシフィック・ケーブル」の建設を発表した。EACパシフィックは米国からハワイ,グアム,フィリピンといった南ルートを通って,直接南アジアとアメリカをつなぐものになる。米国と日本をつなぐ北ルートもある。フィリピンと日本の間のルートは,既存のEACやC2Cといったケーブルを使う形になる。これをもってリング型の構成になる。

 EACパシフィックは2008年7月に稼働する予定だ。運用は我々が担当するが,投資については協議中だ。