好機生むビジネスモデル作りの参考書

 18世紀のパリでは、読書室という商売が流行していた。当時はまだ高価で、庶民には手の届かなかった書籍を購入し、読み手に有料で貸し出すというビジネスだ。

 書籍の出版元はさぞ苦々しく感じただろうと思いきや、さにあらず。発行部数を少なく抑え、価格を高めに設定することで、これに対応した。書籍の買い手である読書室のビジネスを守ったうえで、自社の利益も確保する戦略を採ったのだ。

 良い商品を作り、原価に利益を載せた価格を、商品の利用者に支払ってもらう──。これがビジネスの基本だが、現実はそう単純ではない。いつ、誰に、どのようにコストを負担してもらい、どう利益を確保していくのかといった判断が、ビジネス全体の流れを形作ることになる。

 本書は、米グーグルや米フェイスブック、LINEなど話題のIT企業を例に挙げ、各社がどのようにしてお金を回すようにしているのかを整理する。ビジネスモデルから枝葉の部分を取り除き、基本となる骨格にフォーカスしているので、解説は平易で分かりやすい。

 「もう少し深掘りしてほしい」と感じる部分もあるが、個々の解説をシンプルにしたことで、事例が豊富だ。いわゆる“フリーミアム戦略”を採用するソーシャルゲーム各社、2種類のインセンティブプログラムを用意する「NAVERネイバーまとめ」、物流コストにEC業界平均の2倍をかけるアマゾンなど、多様な“儲かるしくみ”が紹介される。

 「言われてみればそうだ」ということも多い。しかしいかにこうした点に気付くかが、ビジネスを考えるうえで重要だということを、再認識させられるはずだ。

 その象徴が、最終章で示される税制をめぐる各社の対応だ。「税逃れ」と批判されることが多い、グローバルIT企業の最新動向を解説している。もちろん違法行為を促すことが目的ではない。「学ぶべきところは学び、さらにアイデアや思考法まで分析することで、切磋琢磨すべきだ」というスタンスで著者は紹介しているのだ。その意味でグローバル企業がどんな視点を持っているのかを理解しておくことは大切だ。

 冒頭の貸本屋的商売。江戸時代の日本にも存在し、本を貸すだけでなく出版まで手掛ける商人が多かったそうである。行商人のように家々を回るビジネススタイルだったため、読者に日ごろから接し、どんな本が支持されるかを把握していたからだ。

 「どうやって儲けるのか」を考えることは、単に目の前のビジネスを形作るだけでなく、将来のビジネスチャンスにもつなげられる。本書で得たヒントが、読者の未来を大きく変えるかもしれない。

 評者 こばやし あきひと
日立コンサルティング シニアコンサルタント。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業、国内ベンチャー企業を経て現職。ビジネス書の翻訳も手がける。
IT企業が儲かるしくみ

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藤原 実 著
技術評論社発行
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