2014年6月21日、群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」が日本で18件目の世界遺産となることが正式に決まり、週末の話題を集めた。この世界遺産とITはどう関連しているのだろうか。

 分かりやすいのは、世界遺産の運営に関わる業務の効率化や、外部への普及・啓蒙や教育、あるいは単純に興味を引く仕掛けとしてITを使うという形だろう。後者では、Webやモバイルはもちろん、ウエアラブル機器が大きな役割を果たすに違いない。米グーグルの「Google Glass」を利用した企業向けアプリケーション開発パートナーとして認定された1社である米GuidiGOは、文化的施設などのツアーガイドアプリを開発中という(関連記事:Google、企業向けGlassアプリ開発の認定パートナー5社を発表)。

 もっと途方もない議論として、「ITに関わる取り組みが将来、世界遺産になり得るか」が挙げられよう。世界遺産の登録を受けるためには、「人間の創造的才能を表す傑作である」「建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値感の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである」といった登録基準を満たす必要がある。しかも、世界遺産リストに登録されるのは有形の不動産のみで、無形文化遺産は登録されない。

 このようにハードルは非常に高い。かつて欧米で日本発の「ソフトウエア工場」が注目を集めたが、工場と付いていても富岡製糸場とは全く様相が異なる。そもそも様々な要因によって、仮にソフトウエア工場が世界遺産に決定しても、多くの人が「行ってみたい」と思う存在になるかは残念ながら疑わしい。

 ただ、「世界遺産を狙う」ことを目的とするのは本末転倒であるにしても、「人間の創造的才能を表す傑作」を生み出す、「科学技術の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値感の交流」の場をIT分野でどう作り出すかを考えていくのは、十分意味がある行為だと思う。情報処理学会の「情報処理技術遺産」を見て先人の功績に敬意を払いつつ、50年後、100年後、さらに先を、世界遺産をきっかけに考えてみるのも悪くない。