いまの日本で、いや世界で、電子回路と無縁に暮らしている人はいない。直接目にする機会が少ないだけで、パソコンはもちろん、テレビやクーラー、リモコン、携帯電話、車、エレベーター、ありとあらゆるところに電子回路が組み込まれている。
東大発ベンチャー企業のAgIC(エージック)が主力製品にしようとしているのは、「AgIC Print」という電子回路やセンサーを紙に印刷する技術である(写真1)。
電子回路といわれて思い浮かべるのは、緑色のプリント基板の上に回路が配線され、いろいろな電子部品がのっかったものだろう。プリント基板を紙に置き換えると、どのようなイノベーションが起きるのか。
AgIC代表取締役社長の清水信哉氏に話を聞いた。
ベストペーパーの栄誉に輝いた論文発表から思わぬ展開
AgICのオフィスは、本郷三丁目駅からほど近い雑居ビルの中にある。細長いフロアはまるで実験室のような雑然とした雰囲気。プリンターの箱が山積みになっていたり、よくわからない部品が散らばっている。奥には大きなテーブルとホワイトボード。
「われわれの製品は大きく分けて二つあります。一つは導電性のペン。もう一つはプリンター。ペンだと電子回路を書ける。プリンターだと印刷できます」
と清水氏(写真2、3)。