いまだに「IT業界は変化が激しくて…」などと言う人がいる。もちろん米国のIT業界の話をしているのなら、その認識は正しい。しかし、そう話す人は日本のIT業界のことを言っていたりするから、驚いてしまう。

 おそらく四半世紀も前の認識を、いまだに引きずっているのだろう。確かにその当時は、日本のIT業界も通信業界などに比べれば変化が速かった。だが今や通信業界がラビットスピードなら、IT業界は亀の歩みである。

 少し前の話だが、2002年にIT業界の取材をほぼ10年ぶりに担当するようになって驚いたことがある。久しぶりの取材先で、「IT業界は一刻も早く人月商売から脱却しなければならない」という話を聞いたのだ。

 実はその10年前、私が日経コンピュータを離れる前の取材が、この人月商売に関するものだった。つまり、10年経ってもIT業界は何も変わっていなかったのだ。その間、私は規制緩和で地殻変動が起こり始めた通信業界や、勃興しつつあったネット業界を取材し、その変化の速さに慣れていたら、IT業界の変わらなさに衝撃を受けた記憶がある。

 そして今、さらに10年以上の歳月が流れた。IT業界では依然として、人月商売のSIや受託ソフト開発を続けている。しかも、外資系企業を除けば、主要なITベンダーの顔ぶれもほとんど変わらず、大手SIerを頂点とする多重下請け構造の中に多数のITベンダーがひしめく状況が続いている。

 一方、通信業界では、NTT東日本と西日本の音声通話の収入がこの10年間で、1兆円から10分の1の1000億円に激減した。それくらい通信業界のビジネス構造は激変しているのだ。ましてネット業界は言うに及ばない。もちろんIT業界も米国を見れば、この10年でいくつもの著名ベンダーが消え、グーグルやアマゾン・ドット・コムなどのクラウドベンダーが台頭するなど、その変化は激烈だ。