関西エリアのテレビ放送局が集まって2011年にスタートし、着実に大きな動きになりつつあるのが、マルチスクリーン型放送研究会(マル研、ホームページ)の活動だ。

 マル研は、放送局が主体的に提供する2ndスクリーン型放送サービスの実用化を目標に活動している。これまでは展示会などで番組やCMの2ndスクリーン連動サービスのデモを実施してきた。昨年度は、いよいよ「提案から実践へ」という取り組みの第一弾として、2014年2月16日を皮切りにオンエアトライアルを実施した。そして、今年度の後半以降には、いよいよ「ビジネストライアル」の実施を予定する。実用化に向けて大きな一歩を踏み出すことになる。

 5月14日に総会を実施したが、参加者は合計78社だった。このうち、放送局47社でさらに新規加入を検討している局もあるという。マル研の特徴の一つとして局を横断した取り組みであることが挙げられるが、エリアや系列を超えて相当に横の広がりを見せている。ビジネストライアルの動きを含め、今年度も目が離せない存在になりそうだ。

<とてもシンプルな構成のSyncCast>
 オンエアトライアルは、マル研にとって非常に画期的な取り組みになった。もともとマル研はIPDCの利用を想定したマルチスクリーン型放送の研究から活動をスタートさせた。昨年6月に開催された「IMC Tokyo 2013」では、その集大成のようなデモを実施している。

 とはいえ、IPDCがISDB-Tの技術仕様に組み込まれて、端末が普及するのを待っていたら、いつまでたってもマル研で検討してきたマルチスクリーン型放送を提供できない。そこで、昨年IMC以降に今できることを検討してきた成果が、「SyncCast」(詳細はこちら)と呼ぶアプリであり、このアプリを活用したオンエアトライアルである。

 SyncCastの仕組みは非常に単純である。利用側は、まずアプリをダウンロードし、利用開始時に性別と誕生年、視聴エリアを入力すれば、その視聴エリアにおけるマル研会員放送局のリストが出てくる。放送局を選択すると、タイムラインに放送局が提供するセカンドスクリーンに向けた情報が、ブロック単位で、放送内容にタイミングを合わせてインターネット経由で飛んでくる。その場で、あるいは番組を見終わったあとにでも、その情報を起点に、関連づけを検索したり、埋め込まれたリンク情報から関連のホームページに飛んだり、地図に飛ぶことができる。情報はブロック単位でどんどん降ってくるが、気になる情報はブロックごとお気に入りとして別に登録できる。このほか、番号をタッチして電話をかけたり、アンケートに答えるといった機能もある。

 放送局側も、テキスト入力や画像貼り付けなど、簡単なパソコン操作で情報を提供したり、アンケートを行うことができる(今年も「IMC Tokyo 2014」で実際の番組による様々なデモが予定されており、実際に画面の様子や、簡単にコンテンツを制作できる様子、などバックでどういう仕組みが稼動しているのかを確認できる。関連する講演も行われる)。

 オンエアトライアルは、25の放送局が実施した。17社から27のCM素材が集まった。こうした取り組みで集まった知見をベースに、2014年度はいよいよビジネストライアルを実施しようということである。

<まずはマーケットを作りたい>
 マル研の志向する2ndスクリーン型放送サービスは、一種の通信・放送連携サービスと位置づけられる。ただし、テレビ端末にYoutubeやTwitterなどのコンテンツを表示するのとは逆で、テレビ番組の関連情報をスマホなどに提示するという形態である。

 視聴者がテレビ放送内容の関連キーワードをスマホなどで打ち込んで検索を行うことは一般化している。これは、検索ランキングなどからも明らかである。そうであるならば、放送側からスマホなどの端末に情報を出していこうというのが元々の発想である。

 これを実現するために、規格を含めてテレビの高度化を進めて実現するというアプローチもありうるが、マル研としては「まずはマーケットを作る」(マル研事務局長である毎日放送の齊藤浩史氏)ことを目指している。その前哨戦がオンエアトライアルであったが、今年度実施するビジネストライアルは、「どうしても踏み込まなければいけない取り組み」と位置づける。

 オンエアトライアルのときは、広告主に許諾してもらい、コンテンツも放送局側で用意した。広告主側に確認をしてもらい、必要な修正も実施した。つまりは、広告主には、費用は一切かからない形だった。ビジネストライアルでは、広告料なのか、あるいはコンテンツの制作費なのか詳細な検討はこれからだが、何らかの取引のある形にする計画である。「お金を動かすことは大きな意味がある。いよいよ大きな山場を迎えることになる」(齋藤氏)ということだ。

 マル研では、2014年度は、「視聴者」「広告媒体」「放送局」「新規のビジネス」の四つの軸で、マルチスクリーン型放送を広げていく取り組みを計画する。視聴者については、例えばスマートフォンだけでなく、パソコンユーザーなどに向けた取り込みを挙げる。広告媒体の拡大は、まさにビジネストライアルで取り組むことである。
 放送局の広がりに向けては、例えばアプリ間連携を挙げる。放送局独自の番組連動型アプリケーションの取り組みも顕著になっている。そうした場合も、SyncCastを入り口にして放送連動アプリを楽しんでもらい、終わったら戻ってきてもらうようなイメージを推進する。

 新規ビジネスについては、ビッグデータやeコマースなど、深掘りできるところは取り組みを進めていきたい考えである。