図1●CDOの経歴
図1●CDOの経歴
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図2●CDOとCIOの役割分担
図2●CDOとCIOの役割分担
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 日本でCDOを設置している企業は、グローバルと比較するとまだまだ少なく、「そんな肩書きの人を見たことがない」と奇異に感じる方もいらっしゃるかもしれない。デジタルマーケティングの責任者をCDOと見なしているケースが多いのではないかというのが、ガートナーの見解である。

 確かにCDOの経歴を見ると、マーケティング経験者が20%を占めるが、CIO経験者もほぼ同じ割合(図1)。ビジネス戦略の経験者も含め、この3つの経歴のどれか1つ、もしくは複数を経験した人材がCDOに就くケースが9割に上っている。

 グローバルにみると、CDOを設置する企業は2014年度中に3倍に増えると予想されているが、日本ではこの数字はそんなに増えないだろう。

 というのは、日本の企業は新たな機能を取り入れるに当たって、新たな役割と組織を作るということをあまりしない。既存の組織の役割を拡張するという形で対応する傾向が強い。デジタライゼーションもしかりで、IT部門や事業戦略部門がチームを作って対応していくというケースが多い。現時点では、CIOがCDO(的な役割)を兼ねていたり、IT部門内にデジタライゼーションのチームができているのが実態だろう。

デジタルリーダシップを担うべき人は

 ただし、デジタライゼーションのスケールが大きくなり、投資額が増えてくると、新しい組織化が必要になる可能性は高い。日本でもリクルートなど事業のデジタライゼーションを積極的に進めている企業では、新しい組織を立ち上げる例が増えている。新たな機能と役割を定義することで、組織における役割が明確になり、予算を取りやすくなるなどのメリットも期待できる。ジョブディスクリプションが明確な欧米では王道のアプローチである。

 調査では、「CDOとCIOが役割を明確に分担してすみ分けられる」と考えている人の割合は、3分の2に上っていた(図2)。この役割分担を明確にし、機能の重複や抜け漏れを防ぐことが必要だ。これができないと、CDOとCIOが対立する役割として考えられ、不毛な縄張り争いに陥ってしまうリスクがあるからだ。

 「CDOに最もふさわしい人材は誰か」という問いに対しては実はもう答えが出ているのだと思う。

 今回の調査ではCEO(最高経営責任者)がデジタルに精通している企業では、そうでない企業に比べ、ITの有効性、ユーザー満足度、ビジネスパフォーマンス、CIOの権限などがすべて高いという結果が出た。したがって、CEO自身がデジタルリーダーシップを担っていくのが最も望ましいということだ。
 「デジタル化する世界において企業はいかに生き残り、力強く成長していくか?」が経営の重要課題だとすれば当然の答えだともいえる。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。