世界はいざ知らず日本では、企業がクラウドサービスを使わないのは愚かなことだ。なにしろアマゾンやセールスフォース、マイクロソフトなどの米国勢に加え、日本のITベンダーや通信事業者がそれこそ猫も杓子もクラウドに参戦している。商売になるのか余計な心配もするが、これだけ多数の中からサービスを選べるのは日本企業だけの特権だ。

 そんなわけで、日本企業でもクラウド活用はもはや当たり前。特に企業の事業部門にとっては、一昔前を考えると夢のような環境が手に入った。以前ならIT部門に開発を依頼しても「忙しい」と断られるか、目玉が飛び出るような金額を配賦されていたアプリケーションが、SaaS系のサービスとして、リーズナブルな料金ですぐに利用できる。

 かくして多くの企業では、IT部門の管轄外でIT化が進む“シャドーIT”が花盛りとなった。そうした事業部門の“暴走”に対して、IT部門は当初「ITガバナンス上で問題」などと言っていたのだが、事業部門に言わせれば「必要なものを用意しなかったアンタが悪い」。結局、IT部門が現状追認の利用ガイドラインを定めて、クラウド利用を“合法化”せざるを得なくなった。

 一方、IT部門自身はどうかと言えば、自らが管理するシステムについて依然としてクラウド活用に否定的なところが多い。もちろん銀行の勘定系システムをクラウドに載せろとは言わないが、既に日本でも基幹系システムをIaaS系のサービスにマイグレーションする事例もいくつか出てきているのに、多くのIT部門は愚にもつかない理由を並べ立ててクラウド活用に背を向ける。

 愚にもつかない理由とは、クラウドはセキュリティ面でも問題があるとか、可用性が低いとか、長い目で見ると結局はコスト高になる、といったたぐいのものである。こう書くと、「当然の理由じゃないか。愚にもつかないとは何事だ」と怒る人もいるかもしれないが、やはり愚にもつかない理由だ。と言うか、そこにはIT部門の利益を守るための一種の嘘がある。