欧州委員会は現在、新たな通信規制案を提案中である。それはどのようにして現状を救済し、その方法にはどんな問題点を含んでいるのか。オークションによる周波数価格の高騰や厳しい合併条件など、規制見直しの背景にある問題点と、それらに対するモバイル業界からの改革要望のポイントを整理する。

 現在、欧州各国でモバイル事業者数は4~5社程度であり、EU(欧州連合)に加盟する全28カ国で事業者数は100を超えている。その欧州では数年来の不況の影響で、高速ブロードバンドの投資が伸び悩んでいる。また、通信資本が欧州から退出する動きが見られる一方で、大手の英ボーダフォンが米AT&Tの買収標的になっているという噂も聞こえてくる。

 こうした状況の中、欧州委員会は2009年に発効した一連の通信規制枠組の指令類を改定し、新たな規制の枠組みを提案している。この規制案はEU全域にわたる通信の単一市場化を進め、グローバルな競争力を持つICT産業の実現を目指したものだ。

業界の疲弊と投資の停滞

 欧州のモバイルサービスは成長産業の花形として、高い普及率と安価な通信料金を実現してきた。消費者にとっては好ましい状態であり、その意味ではEUモバイル政策は成功と言えるだろう。だがこの数年来の不況を経て、業界からは従来の政策を厳しく批判する声が出てきている。その内容を、欧州の固定系旧独占事業者を中心とした業界団体のETNOや、モバイル事業者の業界団体であるGSMAのレポートに見ることができる。

 例えばETNOは、業界の疲弊は従来の規制政策に一因があるとする立場から、次の5つの分野にわたる見直しを要求している。それは(1)固定卸売アクセスの規制緩和、(2)OTT(Over The Top)プレーヤー間との競争条件の公平化、(3)周波数割り当ての効率化、(4)モバイルの健全な合併を許容、(5)規制ルールや手続きを各国間で共通化─である。ここではモバイル業界に関する(3)と(4)を見ていく。

周波数価格の高騰が普及に悪影響?

 ETNOのレポートによれば、周波数割り当ての非効率化を招いている一つの例が周波数オークションである。ETNOは欧州各国を大小2つのグループに分け、3G(第3世代携帯電話)オークションの周波数価格と9年後における3Gサービスの普及率の関連を示したうえで、オークション価格が高騰するほど普及が進まないと主張している。例えば、大国グループのドイツと小国グループのオランダはいずれも周波数価格が最も高騰した国だが、ともに3G普及率が最も低い(図1)。周波数価格の高騰が事業者にダメージを与え、消費者にサービス普及の遅れをもたらしたことは明らかだろう。

図1●3Gオークションの周波数価格と9年後の普及率
図1●3Gオークションの周波数価格と9年後の普及率
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