経済学者ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーション論

所長「ときに榊田くん、キミは創造的破壊という言葉を知ってるかね」

榊田「もちろん知ってます」

所長「ふむ。では、誰が言った言葉ですか」

榊田「えーっと、それは……。ニーチェでしたっけ、それともサルトルだったかな」

所長「またいい加減なこと言って。この名言を世に送り出したのは19世紀から20世紀にかけて活躍した経済学者ヨーゼフ・シュンペーターです」

榊田「でも創造的破壊って、イノベーションの言い換えじゃなかったでしたっけ。なのにどうして経済学者がイノベーションに言及したんだろ」

所長「シュンペーターは馬車から機関車のような非連続的な経済発展の原動力になるもの、これこそがイノベーションだと考えたからですよ」

榊田「経済発展の原動力がイノベーション──」

所長「そしてイノベーションを巻き起こすには、既存の物や力の結合をいったん解き放ち、物や力を新たに結合して従来にないものを創造しなければならないと考えました。古きを破壊し新しきを創造する。だから創造的破壊というわけですね」

 さらにシュンペーターは、この「創造的破壊=イノベーション」を推進する役割を企業家に求めた。その一方で企業のゴーイング・コンサーン(日常業務)を管理する役割を経営者に割り当てた。つまりシュンペーター経済学では、企業家と経営者は別の役割を担う存在だったのである。

 ところがドラッカーはマネジメントの主要機能にマーケティングとイノベーションを据えた(第1回の「『おたくの会社のミッションって何?』に答えられますか」を参照)。つまりドラッカーにより、経営者は日常業務の管理のみならず、イノベーションを推進する役割も担わされたのだ。そういう意味で、シュンペーター経済学ではマネジメントから分離されていたイノベーションを、ドラッカー経営学ではマネジメントの管轄下に置いた、と理解できるわけだ。