数年前に、「製造業は他の産業に比べてIT投資の面で遅れており、IT活用に関する意識も低い」といった趣旨のことを書いて、“現実を知らない”識者から「現実を知らない者の暴論」とこっぴどく叱られたことがあった。当時はまだ「大手製造業=IT活用先進企業」という神話が残っていた頃なので仕方が無いが、さすがに今は、製造業のIT部門も含め多くの人に同意してもらえると思う。

 もちろん例外的な先進事例はあるが、多くの製造業では、企業の収益に直接貢献するようなIT投資はほとんど行われてこなかった。そして今でも状況は同じ。例えば、様々な業種のIT部門が参加する研究会で「今後はビジネスに直結するIT投資、売り上げを伸ばすためのIT投資が必要」といった話になっても、賛同するのは金融や小売りなどサービス業のIT部門ばかり。製造業のIT部門からは「むしろセキュリティへの投資が重要」といったピント外れな意見が出る始末だという。

 製造業のIT投資の“後進性”はやむを得ない面もある。ものづくりを生業とする製造業では従来、情報システムがビジネスの主役とまでは言わないものの、主役級として活躍できる分野がほとんど無かった。会計など間接業務向けのシステムを別にすれば、せいぜい生産管理システム、そして消費者向けに多品種の製品を手掛ける企業でも、あとは物流管理システムぐらい。しかも生産管理システムの開発・運用は工場が担い、本社のIT部門が直接タッチしないケースも多い。

 これに対してサービス業では、システムはビジネスの主役、あるいは主役級の役割を果たしている。金融業ではサービス提供にITは不可欠だし、そもそも金融商品の組成・運用はシステムがなければ不可能だ。小売業でも、差異化のために店舗のIT武装化が進んでいる。その究極形であるコンビニエンスストアは、もはや“システム産業”と言えるほど、サービス強化、収益アップのためのIT投資に巨額の資金をつぎ込んでいる。