東京大学経済学研究科 ものづくり経営研究センター教授 研究ディレクターの新宅 純二郎氏は2014年5月12日に開催された「3Dプリンティング・シンポジウム」(日経ものづくり主催、東京・目黒雅叙園)の基調講演に登壇。「日本が目指すべき『新ものづくり』の姿――3Dプリンタが生み出す新ものづくり」というタイトルで、3Dプリンターが既存企業に与える影響や普及プロセス、今後の発展可能性などを解説した。

試作・設計工程の短縮がものづくりプロセスを革新

東京大学経済学研究科 ものづくり経営研究センター教授 研究ディレクターの新宅 純二郎氏
東京大学経済学研究科 ものづくり経営研究センター教授 研究ディレクターの新宅 純二郎氏
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 新宅氏はまず、3Dプリンターのような新技術が社会や企業に与える影響についての代表的研究である、ハーバード・ビジネス・スクール教授のClayton M. Christensen氏の著作「イノベーションのジレンマ(原題はThe Innovator's Dilemma)」を引用。3Dプリンターのような「分断的イノベーション」を採用した製品は、短期的にはその時点で市場の主流となっている既存製品と比べて何らかの欠点があるが、市場周辺の新規顧客が評価する「安い」「単純」「小さい」などの特徴を持っていることを説明した。

 例えば、電子式のクォーツ時計は登場直後、「電池寿命が短い」「こわれやすい」「小型化しにくいためデザイン性に難がある」などの問題を抱えていた。だが、圧倒的な精度という1点が評価されて普及していった。

 分断的イノベーションの評価は、企業ごと、あるいはユーザーごとに大きく異なる。新宅氏はそうなる理由として、技術進歩の「トレードオフ」の問題を挙げる。例えば、自動車ではスピードと環境性能、コンピュータでは小型化と処理性能にトレードオフの関係がある。「分断的イノベーション」を採用した製品は、このトレードオフにおいてスピードや小型化など一方を優先する。