D-Waveの量子コンピュータは、日本の研究や発明が無ければ、実現し得なかった。それはD-Wave Systems自身が認めている。
D-Waveの基礎となる理論やデバイスを生んだ人々を紹介しよう。
量子アニーリング
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現:エーザイ筑波研究所 主幹研究員
量子アニーリングは、東工大の西森研究室に所属していた門脇氏(写真1)が博士論文として、1998年に英語で発表したものだ。
「自分の博士論文が、十数年も後に話題になって驚いている」。門脇氏はそう語る。
2001年、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、西森教授と門脇氏の論文を参照した上で「断熱量子計算」という理論を発表した。これは「量子アニーリングとほぼ同じ内容だが、非常に注目された」(西森教授)。
そのためD-Waveマシンは当初「断熱量子計算マシン」と呼ばれていた。しかし「量子アニーリングが先行研究であると分かったことから、今ではD-Wave Systemsも量子アニーリングと呼んでいる」(西森教授)。
超伝導回路による量子ビット
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現:理化学研究所 単量子操作研究グループ グループディレクター

現:東京大学 先端科学技術研究センター教授
D-Waveマシンが使う超伝導回路による量子ビットは1999年、当時NECの研究所に所属していた蔡 兆申(ツァイ・ツァオシェン)氏(写真2)と中村泰信氏(写真3)が世界で初めて実現した。現在は理化学研究所に所属する蔡氏は、「D-Waveの量子ビットは、我々が開発したものと同じ仕組みだ」と語る。
量子力学の現象はそもそも、原子の中といったミクロの世界でしか発生しない。蔡氏と中村氏が開発した量子ビットは、「量子重ね合わせ」という量子力学の現象を超伝導回路という原子よりもずっと大きい物体で発生させたという点で、画期的な技術だった。
現在は東京大学の教授を務める中村氏によれば、「D-Waveは元々、超伝導回路を使って何かビジネスができないかと考えていた会社。私がNECにいるころにも、何度か彼らと議論したことがある」と語る。NECはD-Waveに大きな影響を与えた1社だった。