D-Waveマシンの中で「量子力学の焼きなまし現象」、つまりは量子アニーリングがどのように実行されるのか。実際の実験の様子を説明しよう(図1)。

「横磁場」を加えてゆっくり減らす
図1●D-Waveの内部で発生する量子アニーリングの図解
図1●D-Waveの内部で発生する量子アニーリングの図解
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 まず、解きたい組み合わせ最適化問題に合わせて、3次元イジングモデルにおけるスピン間の相互作用を設定する。これは従来型コンピュータにおけるプログラミングに相当する。

 次に、スピン間の相互作用の強さをゼロにすると同時に、3次元イジングモデルに「横磁場」を加える。実際の操作としては、超伝導回路に対して特殊な電流を流す(1の状態)。

 横磁場を加えると、スピンの向きは上向きと下向きが「重ね合わせて存在する」という状態になる。「重ね合わせ」とは量子力学の現象の一つだ。この場合は、スピンが「上向きか下向きかどちらか分からないが、測定するとどちらかに定まるという状態」(東工大の西森教授)である。

 続けて横磁場をゆっくり弱くすると同時に、スピン間の相互作用をゆっくり強くしていく(2から3の状態)。そして横磁場をゼロにした時、スピンの向きは高い確率で3次元イジングモデルのエネルギーを最小とする組み合わせになる。これが解だ。

 量子アニーリングの理論上は、横磁場をゼロにするまでの時間が長ければ長いほど、厳密解を得られる確率が高くなる。しかし時間が長くなると量子力学の現象である「重ね合わせ」が消えてしまう。そのため数ミリ秒程度で実験を切り上げる。

 実験時間が短いと、厳密解が得られる確率は低くなる。そこでD-Waveマシンでは、実験を1000回繰り返し、最も良い値を「解」と見なす。つまりD-Waveマシンで得られる解は、厳密解ではなく「近似解」となる可能性もある。それでも、「従来型コンピュータで実行するシミュレーテッドアニーリングと比べて、より厳密解に近い近似解が得られる。また解を得るまでの時間も短い」(西森教授)という。