D-Waveの量子コンピュータは、我々が現在使っているコンピュータ(古典的コンピュータ)とも、長年研究されてきた従来型量子コンピュータ(量子ゲート方式)とも、全く異なる仕組みで動く。どのようなものなのか、5ステップで解説しよう。

STEP 1:どんなハードウエアか

 1台10億円とも言われるD-Waveマシンのハードウエアを見てみよう(図1)。筐体はサーバーラックのような外観をしている。筐体内には銀色に輝く筒状の「希釈冷凍機」があり、冷凍機のさらに内側に、D-Waveマシンの心臓部である超伝導回路が納められている。

超伝導回路で量子ビットを実現
図1●D-Waveのハードウエア
図1●D-Waveのハードウエア
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 冷凍機を使うのは、超伝導回路を絶対零度(摂氏マイナス273.15度)に限りなく近い「20ミリケルビン」という温度に冷やす必要があるためだ。この冷凍機の中は「宇宙で一番冷たい場所」と言われている。

 図1の中央の写真が超伝導回路だ。ここには量子コンピュータにとって最も重要な、量子力学の現象を発生させる「量子ビット」が実装してある。量子ビットは、ニオブ(Nb)という超伝導材料で作られたループで、ループに左回りの電流が流れると上向き、右回りに電流が流れると下向きの「磁束量子」が発生する。磁束量子とは、物体に磁力をもたらす「磁束」の最小単位である。ここでは大まかに「量子ビットの中には、上向きまたは下向きの信号が流れる」と理解してほしい。