今年3月のジュネーブ・モーターショーで電撃的に発表されたアップルの「CarPlay」。iPhoneが紡ぎ出した世界をそのままクルマに持ち込もうという野心的な試みだが、果たしてその先にはどんな光景が待ち受けているのだろうか。長年アップルをウオッチしてきたITジャーナリストの林信行氏と、ジュネーブショーの模様を現地からレポートしてくれた自動車ジャーナリストの川端由美氏のお2人に、CarPlayがもたらすインパクトや将来展望、課題について語ってもらった。

(聞き手は石井 智明=日経コンピュータ編集委員)


図1●ジュネーブモーターショーで発表されたばかりのCarPlayを現地取材した自動車ジャーナリストの川端由美氏(左)と、日本で最もアップルを深く知るITジャーナリストの林信行氏(右)に、自動車とIT、それぞれの視点から語ってもらった。
図1●ジュネーブモーターショーで発表されたばかりのCarPlayを現地取材した自動車ジャーナリストの川端由美氏(左)と、日本で最もアップルを深く知るITジャーナリストの林信行氏(右)に、自動車とIT、それぞれの視点から語ってもらった。(撮影:渡辺 慎一郎)
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クルマの中と外の情報環境をシームレスにつなぐ

鳴り物入りで登場した感のあるCarPlayですが、現時点では3月に発表された以上の詳細な情報がなく、実態をつかみかねている人も多いと思います。CarPlayとは一言で言うと何なのか? 何ができて、何が変わるのかを簡単に解説していただけませんか。

 実はアップルが自動車業界と組むのは今回が初めてではありません。10年以上前、iPodが登場してまだ間もない頃に、BMWと一緒にiPodが車内で使える仕組みなどを提案したことがあります。でも、そのときはできることと言えば、せいぜい音楽を聴くくらいでした。

 それに対して、iPhoneは今や衣食住のすべてに関わる製品になっていますし、台数的にもマジョリティになっています。特に、日本での存在感は圧倒的で、世界的に見ても年間の生産台数が1億5000万台とか、そんなスケールになってきている。それだけの台数があるデバイスに、みんな自分のプライベートな情報、例えば友達の連絡先とか、丁寧な人は住所まで全部入れているわけです。年賀状とかの際に使えるように。

 そのデバイスをさっとクルマの中に入れて、年賀状のために入れておいた住所を使って目的地までのナビができる。すごく親和性が高いというか、クルマの情報システムって、今まではクルマの中だけで終わっていたのですが、実は、人はクルマの中だけじゃなくて、その後、つまりクルマを降りた後も含めたトータルなナビゲーションが必要だったりするわけです。スマートフォンであれば、そういう最初から最後までのドア・ツー・ドアなナビができる。

 あと、クルマの中のコミュニケーションという点でも、iPhoneであれば、通話もできればテキストを介したメッセージのやり取りや、Twitterへの投稿なんかも音声エージェントのSiriを使って声だけでできます。逆に、メッセージを読み上げてもらうことも可能です。安全性との絡みもあるので、今後アップルがどこまでやるかまだ分からないけれど、APIをオープンにしていく用意があるなら、iOS用に書かれた100万本以上のアプリがそれに対応することになります。ちなみに今回の発表では、音楽再生の部分だけサードパーティにAPIを公開しています。Spotifyなどと連携して、音楽がストリーミング再生できるようになっているわけです。

図2●「CarPlayのメリットは、iPhoneの使い勝手や環境をそのままクルマの中に持ち込めることにある」と語る林信行氏。
図2●「CarPlayのメリットは、iPhoneの使い勝手や環境をそのままクルマの中に持ち込めることにある」と語る林信行氏。(撮影:渡辺 慎一郎)
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