インドIT最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズの日本法人が三菱商事のIT子会社と合併することになり、日本のIT業界では「大型再編の呼び水になるのでは」といった観測もあるらしい。だが国内の大手SIer同士の買収劇があったとしたら、経営者はよほどのアホウである。SIの足し算では今後、良い事など何も無い。成長を目指すM&A(合併・買収)なら選ぶべき良縁は他にある。

 言うまでもないことだが、日本のITベンダーが主力事業とするSIは、技術者の頭数によって売り上げの上限が決まる。もちろん、大手SIerには下請けに出す量を増やすことで、ユーザー企業から受託できる案件の規模や量を拡大し、売り上げを増やす手はある。これを「レバレッジを効かせる」というが、レバレッジを効かせすぎると失敗リスクが高まるから、これもおのずと限界がある。

 そんなわけで、今のようにSIの需給が逼迫しつつある時期でも、売り上げの急拡大は望めない。例えば富士通の2014年度の「ソリューション/SI」セグメントは、売り上げの伸び率がわずか1%。つまり、不景気な時期に仕事欲しさで獲得した不良案件が破裂するような“刺激的な事件”でも起こらない限り、好況時のSIは経営的に見れば極めて退屈なビジネスなのである。

 リーマン・ショックの前、まだSIをはじめとするITサービス業に「先端産業」「成長産業」との幻想があった頃なら、そんなSIerの経営に対して株主や投資家が文句を言った。「成長戦略を示せ」と詰め寄られて、多くの経営者はやる気も無いのに「M&Aも視野に入れる」と口走ったものだ。そのため、過当競争のIT業界の集約が進むとの観測も出たが、SIerの経営者はやはり口だけだった。

 わずかにグループ企業同士の統合や救済合併、敵対的買収から身を守るための経営統合などがあったぐらいで、IT業界の集約は沙汰止みとなった。今、コンピュータメーカーやNTTデータを別格として、大手SIerの売上高は3000億円前後に散らばっている。いわゆる“3000億円倶楽部”である。この3000億円倶楽部の居心地は良いようで、NTTデータなど超大手に肩を並べようという動きは生まれてこなかった。